第6話 帰りの会 -ここって昭和?!


 保健室を出て、増田愛さんと僕は二人で階段を上っていた。

 母親に電話すると言う僕の担任?を、なんとか説得し、もう怪我は治ったと言った。

そして増田さんと一緒に教室に向かった。


「大丈夫?」

「うん、怪我はもう大丈夫」

 僕はそこそこ元気に言った。

「うん、知ってる。ヤハゲが来たから君が怪我してるって、とっさに言ったの」

「ヤハゲ……」

「河井くんも言ってたでしょ、矢作先生のこと、ヤハゲって」

 ヤハゲ……そんなあだ名いいの?

 矢作は髪がふさふさしてるから、逆に言えるんじゃない。と、増田さんは言った。僕はそんなこと言わないって言ったら

「河井くん、またまた〜いい子ぶって」

 なんて言われたけど、いや本当にこれからも言わないけどって思った。


 教室の目の前まで来た。2年C組なんだ。

 僕の本当のクラスは2年3組だったけど。どちらも3番目。


「あ、河井じゃんー! 久しぶり」

「治ったの? 足は」

「会いたかったよぉ」


 増田さんのクラスを一目見てみたい。近くの中学なんだし、仲良くなってまた会うきっかけにしたいって興味本位だった。

 あとは多分、バレるかバレないかってスリルもあったのかもしれない-。


 でもクラスに入る時はやっぱり心臓が掴まれるような緊張だった。

 だけど、クラスの男子たちは僕に気さくに声をかけ、おかえりと言ってくれた。


 でも、これはどういうことだろう?みんなが僕を知っている。この学校は隣の学校なんだよね?

「静かにしてー」

 香織さんが教卓から声をかける。


 廊下側、後ろから2番目が空席。迷わず座る。増田さんは隣の列、前方に座る。僕の前に座っている男子が振り返った。  

「おかえり、河井」

「ああ……ありがとう」


 教室に入る一分前-。

「廊下側、後ろから2番目の席に座って。その横の掲示物見て。クラスの座席表や係の表があるから」


 座席表が貼ってる壁に、生徒が書いたクラス新聞も張ってある。

 昭和63年と書いてある……。


 昭和63年度、みんなの抱負?昭和って、ウケる。

 ああ、社会の勉強かな。その時代の新聞とか、なりきって作ったな。鎖国新聞とか竜馬暗殺とか卑弥呼新聞なんて、見出し作って。


 これか。みんなの名前が座席表で全部わかる。ありがたいありがたい。


 僕の前が高崎君か……係一覧もある。

学級代表が西山香織、副代表が柏木徹、増田さんは保健係……だから保健室に来たのかな。

 僕はカレンダーを見た。

 え?

 またしても昭和の文字。これは手書きじゃない。6月のカレンダー。カレンダーまでおかしい。昭和って……作ったのか?


 どんだけ昭和にはまってんねん。

 あ、先生の口調が移ってる。


 僕は席に座ってじっと考え込む……カレンダー、クラス新聞。

 今までの出来事が頭に浮かんでは消える。


「誰にやられたん?矢作先生やろ?」

 保健室の防犯ポスター……古い校舎。

 ゴミをかけられる僕。

 機能している焼却炉。

 藪から現れた錆びれた焼却炉。

 そこに飛び込む僕。トンネルを這って……。


 カレンダーを再び見る。僕は1枚めくってみた。7月。


 あ………ない。

 海の日がない。


 前の席、高崎君の肩を軽く叩き、囁く。

「あのさ、今日って、何年だっけ?」

「え?」

「あ、今年。今年は何年だったっけ?」

「なに?年号のこと?」

 彼をじっと見て僕は続ける。

「うん、西暦だと、西暦二千……」

「1989年だろ」

 

 へ?

「せっ、せんきゅうひゃ……1989……年号は今、なんだっけ?へいせー」

「昭和63年……わかんなくなるよね」

「あー、はいはい……」

 前を向く高崎。


「昭和!?」


 僕は大声を出した。

 数名の生徒が僕を心配そうに見た。増田さんも振り返っていた。


 焼却炉の長いトンネルを抜けるとそこは……昭和だった。

 令和にいた僕は……。


 僕は今、昭和にいる。



     

   

   


   


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