第4話 無言清掃 ー はじめまして

 錆びた大きな鉄の物体。多分もうとっくに使われてない。こんな物は見たことがなかった。下のほうに穴?蓋がある。

 あ、古い暖炉かな?ハリーポッター的な?


「今度こそボコボコにしてやるからなぁ」

「逃げられないぞ」

 隣のクラスの二人組がすぐ近くに来ていた。やばいやばい!!そのとき、黒い物体の下の蓋が風もないのにひとりでに開いた。驚いて見つめていると、なんか奥が光った。

「え? 光った」


「河井くん~ 上履きで外に出るのは校則違反だぜ」

「もう逃げれないんじゃない?」


 その錆びきった黒い物体の、蓋の奥に僕はにとっさに逃げ込んでしまった。蓋がパタンと閉まる。口に手をあてる僕。じっとして、

二人が去るのをやり過ごすしかない。

    

 思っていたより中は広かった。真っ暗でもなく、少し日差しが入っている。あれ?こんな立体的だったかな……。

 生徒二人の僕を煽る声はまだ聞こえる。中に通路があるのを見つけた。


 ガゴン!と振動がした。

「おい、これなんだ?」

 あいつらがこの物体を蹴ったらしい。僕は焦って奥のほうへ這って進む。見つかったら絶対ボコボコだよ。携帯に動画撮られて拡散だよ。最悪だ。


 通路はどこまでも続いている。おかしい。こんな長い穴……戻ろうか?でもあいつら、また僕をはがい絞めにして……あ、あいつら怪我させちゃったかな?……いや、そんなの自業自得だ。

 

 戻ったら殴られるだろうな。嫌だ、嫌だ。戻りたくない!僕は文句をいいながら進む。    

「戻りたくない! みんなも助けてくれなかった。あんな教室……最悪! もっと別の場所があれば。違う場所……違う世界で暮らしたい。違う場所へ行きたい!」


 目の前に光が刺す。僕は腰に痛みを感じながら、光の方へ四つん這いのまま進んだ。蓋の隙間から光が漏れている。

「出口だ」

   

 中腰になって蓋を開ける―


 ガサッガサっと顔面に大量のなにか埃っぽい物が降ってきた。

 え?


「うわあ、うわあゴミ! 汚い!」

 僕は物体の中で叫んだ。すると-


「いやー! 手! 人の手ー! キャァー」

「え? ……なに? 誰なの?」


 女子二人。大きな水色の箱を二人がかりで持ち上げている。多分大きなゴミ箱だ。僕のいる物体の中に、ゴミを放り込んだところなのだ。

「なんで? なに? あんた誰よ!」

 ストレートの黒髪の女子が叫ぶ。僕はごみを掻き分けて、蓋の外側に顔を出した。


「こんにちは」


「キャー!!」


「香織、先生呼んで。焼却炉に人が!」

 香織と呼ばれた女の子は慌てて走っていく。

 「え? これ焼却炉? へえ……ま、眩しい!」


 目の前に強烈な光。逆光で見えない女子の顔。光に徐々に慣れてくると、ふわふわした天使、じゃなくて清楚な女生徒の顔。


「……」

「……」

 焼却炉の中の僕と、彼女はじっと互いに見つめ合った。


 これが僕と増田さんとの出会いだった。


「…………なにをしてるの?」

「すみません。えっと、思わす逃げ込んでしまったんです」

「顔に……」

 顔に鉛筆削りのカスがついていた。僕は手で雑に払った。


「斬新な自殺かと」

 顔に似合わず辛辣なことを言う女の子。

「いや、いやまさか……でもクラスにはまあ戻りたくないかな」

「……よく焼却炉に入ろうとしたね。危なすぎる」

「焼却炉だって知らなくて」

 でも焼却炉が学校にあるなんて……ここは隣街の中学校なのかな?

「とにかく早く出て」

「あ、はい。すみません。今、出ます」


 癖っ毛のふわっとした彼女は、さらに驚くことを言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る