第3話 清掃の時間 一 河井の逃亡

   

 制服の男子が、雑草が伸びた裏庭を必死で走っている。かなり必死。上履きのままだし。呼吸が乱れる。


 それは僕。

僕はなにかのターゲットにされた。


 さて、ここからは僕の話。

 高崎の技術室の事件の一ヶ月前-


 全てはここから始まる。


 後ろから僕を追いかけてくる生徒。二人はちゃんと運動靴を履いている。

 今は掃除の時間だった。なぜ僕が追われる?さっぱりわけがわからない。隣のクラスの二人がなにか叫びながら追いかけてくる。 


「河井どこに行った?」

「まだ遠くへは行ってないはずだ」

 なんだよこいつら。ドラマの刑事かよ。

 僕は大きい木の後ろに隠れている。二人が遠ざかるような足音ー。


 もう大丈夫かって、ものすごく小さい声で言ったんだけど。

「大丈夫なわけねーだろ!」

 背後から現れた二人に捕まってしまった。これじゃあ本当にベタな刑事ドラマみたいだ。

「なめてんのか? 金出せよ」

一人が 携帯をポケットから出した。

「河井確保と」と言って携帯でなにか送信している。

「うっ、やめてくれ」

 髪を引っ張られ、携帯で写真を撮られ、蹴とばされ、僕は倒れた。

「なにかの間違えだよね?僕なにかした?」

 それにはなにも答えてもらえない。

「お金なんて学校に持ってきてないよ」

「ズボン脱がそうぜ」

「ねえ、誰かに頼まれたの?」

 しつこく言う僕。僕は昔から気になると聞かずにはいられない性格なんだ。

「拡散拡散」

「やめてよ!」

 僕は二人に押さえつけられ、激しく抵抗する。ズボンのチャックを半分降ろされる。

「なんで?昨日まではこんな前兆なかったよね?なにか僕した?」

「動くなよ!」

 しゃがんだ生徒の顔にたまたま蹴りがヒットする。彼はウガッと言って顔を押さえた。

「て、てめえ」

 もう今しかない-。

 コンチキショー!と心で叫んで、後ろから押さえつけている生徒に頭突きをする。

「ガツ……」

 二人が離れた隙に僕は走りだした。

 校舎からさらに離れ、奥の立ち入り禁止と書いてあるポールを乗り越える。その中は雑草で荒れ、藪になっている。そこに逃げ込こんだ。初めて入った。待てこらなど声が後ろから迫ってきている。


 あいつらきっと誰だっていいんだ。誰か一人、逆らわないやつなら誰でも……。


 「いたぞ!止まれ!」

 しつこい。僕はさらに藪を掻き分け進む。すると、目の前に黒い縦長の物体が……。


「うわ……なんだこれ」


 とても古く錆びた大きな鉄の塊が現れた。

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