第22話 バディ?の時間 2

 昨日は楓が増田さんの名前を語って訪ねて来たり、急遽老人会館に行ったりと楓に振り回されて散々だった。

 騒音も立てるし!


 だけど未来から来た同士がいるなんて!

 これは奇跡だ。思ってもみないことだった。


 苦手を通り越し、顔を見るのも嫌だった楓が仲間だったとは……。


 楓は上原君をクラスメイトから守るため、おかしな行動を繰り返していたってこと。

 全てが腑に落ちた。


 翌朝、まだクラスの半分以上が登校していなかったので、僕は人目を気にすることなく楓に話しかけた。

 彼はいつものように黙って席に座っていた。


「あのさ、僕をピーナッツ男とか言ったのは何だったの?」


 それだけは腑に落ちない。僕の外見の悪口って意味がなくないか?


「あぁ、あれは……河井君になんて話しかけたらいいか考えてて……インパクト与えたいって思ってさ。ちょうどあの日の給食の献立がピーナッツ合えだったから」


「…………」

 全然意味がわからない。


「河井君て薄い顔してるじゃないか。目も小さくて、ピーナッツの中味みたいな」


やっぱり殴ってもいいか?

「……本当に僕と協力する気ある?」


「……あるよ、ある!」と楓は慌てた。


「河井君、僕たちは楽しく過ごすんだよ。僕たちにできることは、まずそれだと思う。そのためには三日後の期末テストはいい点を取らないといけないよ」


楓が上原くんのことでいい案が見つかったと言ったのは、意外とまともなことだった。

 

「上原君と仲良くなって楽しく過ごすこと」

 これが一番だよと楓は言った。できれば期末テストの前に勉強を教えてあげる。

 夏休みも仲良くするとのことだった。


「そうと決まれば、話しかけよう」

「楓、待って。ちょっと落ち着いて考えないと。逆に嫌われたら困る」


 僕は楓の裾を掴んだ。


「確かに。僕はすでに嫌われているかもしれないからね」

 

 僕は激しく頷いた。


「過去に来て上原君を見つけたとき、すぐに話しかけたんだ。君はすぐに引っ越すべきだって。このクラスは呪われているよって」


 なにやってんだ……。


「でも引っ越してもくれないし、僕のこと怯えた目で見るようになって」


「当たり前じゃないか……引っ越しなんて無理だろ?それに怖いってば」


 先が思いやられると思ったけど、意外と早く上原君と話すチャンスが訪れた。

 


****



 休み時間、僕と楓は一番端の使われてない教室で、これからのことを話していた。

 暫くしてクラスに戻ると、教室は静まり返っていた。

 誰もいない。黒板に書かれている時間割を見た。


「 ……あ、次は美術の時間だよ」

「置いてかれたな」


 美術室に行かないと-。


 僕たちは急いで教科書や筆箱を持って、階段を降りていった。

 そのとき、下から不意に女子が現れ、僕は正面衝突してしまった。


「ごめんなさい!」


 聞き慣れた声。増田さんだった。


 僕は倒れなかったけど、増田さんは尻餅をついてしまった。

ごめんなさい!でも本当はちょっとぶつかった相手が増田さんで嬉しかった。

 楓はただ突っ立ていて、特に僕たちを助けるようなことはしない。まぁ普段通りの楓だ。


 僕は彼女の肩に軽く手を置いた。ほんとに軽く。

「こっちこそ。ごめん…… 痛くなかった?」


 彼女は首を振った。


「いや、ほんとごめん。本当に大丈夫? 」


「私は大丈夫……彫刻刀忘れちゃって」


 はにかむようにそう言って、僕を見て笑った。心臓がドキッとした。やっぱり笑うと本当に可愛い。


「上原君もなんだって」


「え?」

 増田さんのすぐ後ろに上原くんが直立していた。

 僕は上原君がいることに全然気づかなかった。増田さんに集中しすぎて。


 見上げると、上原君と楓が見つめ合う感じで立っている。もちろん二人は無言。


「あっ、僕も彫刻刀、教室だ。君は?」

 僕は振り返って楓に聞いた。

「僕も……」

 増田さんは笑った。

「じゃぁ四人で忘れたんだね」


 僕は結構そそっかしいんだけど、でもそそっかしいことに初めて感謝した。


 四人で一緒に教室に戻って、僕は微笑みながら机をのぞいた。彫刻刀のケースに向かってありがとうって言いたくなった。


「上原君? 忘れてないよね?」

 増田さんが上原君に尋ねている。

「うん、置いてある」

「良かった良かった……坂上君は?」

 楓は無言で彫刻刀を、顔の高さまで上げた。

 増田さんはそれを見て微笑んだ。


 四人で早足に美術室に向かった。嬉しいことに美術室はそこそこ遠い。僕は増田さんに話しかけた。


「チャイム鳴ってないよね?」


「うん。まだ大丈夫だよ」


「…………」


 会話はすぐに止まってしまった。どうするんだ?まずいぞ河井健太……。上原君と増田さんが仲良く話し出す前に、僕が話したい。


「あの……」

 

 楓の声がした。


「ついこないだの夜、老人会館に侵入する人影を見たんだ」


 なっ!


「えええっ!」

「えっ」

 増田さんは動揺し、大きな反応をした。おとなしい上原君も声を出した。


 今急にその話?どうすつもりなんだ……。 

「それを河井君に相談してたんだけど……」


「えっ……坂上君はなんで、それを河井君に相談したの?」 

 増田さんが楓に質問をする。


「…………たまたま前を歩いていたから」

 

 なんだよそれ。上原君と増田さんが目を合わせている。


「……ふふっ、前から思っていたんだけど坂上楓君てめちゃ面白いよね。もっと話したいなって」


「………………」

 楓はノーリアクション。


「そうだ。坂上君、後でその話聞かせてよ」



 今日はちょうど週末。僕たちは急遽、老人会館に行くことになった……。


 坂上楓を一緒に連れて。




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