第23話 電話の時間
今夜、老人会館に行く前に僕と楓は大事なミッションがあった。
それは西里町役場に電話をすること-。
「僕がかけようか?」と楓。
「いや、これは僕の家の問題だから」
学校終わりに、そのまま楓は僕の家に寄った。
「窓の鍵が閉まらないことや、侵入者がいるとか言わなくていい。階段が壊れている、崩れそうってことだけでいいから」
僕は頷いた。
最初は建物に侵入する人物を見たと言うつもりだった。でも、窓の鍵を直されて終わりにされたら困る。問題はそこじゃない。
階段が老朽化し錆びて、抜け落ちていること。子供が落ちそうになったことなどで階段をすぐに撤去してほしいと言うのだ。
いざ-
「もしもし……すみません、西里老人会館のことで電話しました。ええ?はい……福祉課?」
チラッと楓を見ると、彼は首を振っている。
「いや、いや……福祉課ではないです……行政課……そうですね。えっ、僕ですか?はい住んでます……高校生ですけど……はい?……あっ、両親ですか?今は出かけていて……名前ですか?僕のですか?……」
撃沈した。肝心なところを話す前に子供だと気づかれて、しどろもどろになってしまい慌てて電話を切ってしまった。
「ごめん」
「いやこっちこそ。声を考えてなかったよ。俺、役場に今から行ってくる。五時までに行かないと」
「え? 楓が?」
「きっと上手くいくよ」
そう言って、楓は出て行った。
大丈夫なんだろうか?もじゃもじゃでひょろひょろで牛乳瓶の底の様な眼鏡をかけた楓が行っても……?
でも月曜日まで待つとまた遅くなってしまうし、楓に託すしかない。
よくわからないけど、何故か上手くいきそうな気がしたんだ。
****
夜の8時半、町のおじさん連中がお酒を飲みながら会議をしていて、老人会館を使っていた。そのため僕たちは公園に集まっていた。
「今日はここで話しておしまいにしないか?」
そう僕が提案すると、香織さんと柏木は反対した。
「ダメダメ、せっかく勉強会の準備してきたんだよ」
ああ、もう。ファミレスや喫茶店とかがあればいいのに。なんでこの時代はなにもないんだ。多分あと10年経てば大通りにコンビニやファミレスができるんだけどな。
天井裏に潜んでいようと言う柏木の案に、みんなが賛成した。増田さんも上原君まで。
信じられない……。楓と僕は目を合わせてた。
僕の家に行くのはどう?と、僕が負けじと言うと……。
「そう言うのいいから」
と柏木。柏木は冷静で頭もいいけど、辛辣でちょっと顔つきもキツいんだよな。
みんなで行くと目立つから、ジャンケンでペアを決めた。
柏木と僕、増田さんと上原君、香織さんと楓に分かれ、二人ずつ侵入していく。
増田さんが良かったな……。
僕はこの時代に来る前、この会館の階段で遊んで階段を壊した奴らを心から憎んでいた。あいつらさえいなければ、おじさんは階段の下敷きにならなかったんだから。
でも今、自分もその仲間になっている。時代は違っても、この積み重ねで階段はどんどん痛んでいくのかもしれない。
あの事件の少年二人はたった一回、たまたまこの階段を上っただけだった。
広樹おじさんが犠牲になったときは、増田さんたちは24歳だから、直接は関係ないだろう。
でもこのままだと嫌いになってしまいそうだ。何度も不法侵入している増田さんたちだって無関係とは思わない。
天井裏では柏木の近くに座っていた。
楓は香織さんと耳打ちのように小さい声で話している。増田さんと上原くんも少し離れて二人で話している。
僕と柏木は、下で帰り支度をしながら話をしているおじさんたちの声を聞いていた。
「今日仕事場にヤクザみてえな男が来たらしいよ……それでなぁ、なんかこの建物の文句だらだら言ってたらしい。階段が壊れてるとか」
酔っているみたいで声が大きい。
「え? 役場にかい?」
心臓が止まりそうになった。
「ああ。もう、怒りまくってたって」
「おっかないなぁ、町の人間だろ? どこのうちだい?」
僕は楓の横顔を見つめた。
ヤクザって…………。
まさか楓が?
誰かに頼んだのかな?
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