第24話 天井裏の勉強会
老人会館の広間を上から見ていると、帰りかけた二人の酔っ払ったおじさんたちが、またお酒を持ち出して再び飲み始めてしまった。
えー!なんだよ……早く帰ってくれよ、全く。
……って言っても悪いことをしているのは僕たちなんだけど。
僕たちは下に降りれなくなってしまった。
役場の話はすぐに終わってしまって、どうでもいい話を繰り返し話している。
煙草の煙が天井裏まで上ってきていた。建物のほとんどが禁煙じゃないことに驚くけど……とにかく、町役場の人に外階段が危険なことが伝わったんだ。
僕たちは天井裏で、屋根から垂れ下がっている裸電球を頼りにこっそり勉強をすることになった。
こんなことなら家で一人で勉強したほうがいいのではと思うけど。
声を出すことができないし、移動すると音が出てバレる可能性があるので、そのままのペアで勉強を始めた。
上原くんは、増田さんに社会を教えてもらっている。
羨ましかったけど、彼は平均点よりも良い点を取らないとゴンに目をつけられる事はわかっていたので、しっかり勉強して欲しかった。
それに屋根裏なんて、ちょっとドキドキするシチュエーションだし、結構いい思い出にならないかな?なんて……。
楓は香織さんから英語や国語を教えてもらっていた。本当は楓は勉強ができるんじゃないかと思わないでもないけど。
柏木は数学が苦手な僕に、なんでわかんないんだよと圧をかけてきたが、わかりやすくちゃんと教えてくれた。
暫くして、柏木が僕の腕を鉛筆でつついて、ノートに『楓』と文字を書いた。真顔で僕を見つめている。
僕は柏木の整った顔をぼんやり見つめた。緊張している事は悟られないように。
柏木はシャーペンで楓の文字をトントンと叩く。
「俺たちがこの前、ここに入ったの見たの?」
「……そうみたいよ」
「本当に?」
僕は首を傾げた。周りには注意したんだけどなぁ……と柏木が意味深に言う。
なんだ?なんか疑ってるのかな?
………僕が話したとわかってるのか?
確かに内緒にしてくれと言う柏木との約束を破った。でも仕方ないよ。
未来で事件が起こるんだから-。
「なぁ、頼むよ河井……」
うわ……なに?怖いのだが……。
柏木は『楓』の文字を丸でぐるぐると囲んで、危険!と書いた。
「見張っててよ。お前に懐いてるみたいじゃないか」
…………柏木や増田さんが楓を誘ったのは、やっぱり監視が目的かもしれない。
****
週明け、期末テスト週間は無事?……かどうかはわからないけれど、なんとか終わった。
やっぱり社会と理科がずば抜けて難しかった。
テストの見回りの先生が矢作のときは、緊張してテストに支障が出そうだった。あのつり上がった狐みたいな目に見られると胃が痛くなる。
テスト週間でさえ、なぜ矢作は白衣を着ているのか……なんてどうでもいいことを思った。さすがにガスバーナーは持ってないけど。
テストの最終日、上原君に話しかけると、
彼は社会は意外とできたと言っていて、僕はそれを聞いて、自分のテストのように嬉しかった。
「まあまあできたとは思う。前のあのときは……テストがあること忘れてて」
と上原君は苦笑いだった。
上原君にも家庭の事情がきっとあるんだろう。
「上原君、増田さんに教えてもらえてよかったね」
「ああ、本当に教え方上手だよね」
上原君は照れくさそうに微笑んだ。
僕は頷いてみたけど、でもまだ増田さんからは教えてもらったことはないけど……。
午後の授業、山口先生は出張だった。
国語の時間は図書室で自習をすることになっていた。本を選んでいると、柏木が僕に話しかけてきた。
「恒例の大嫌いなテスト直しだな……また一緒にやるだろ?」
また?
僕は柏木や増田さんと前から一緒にやっていることになっているのか。
「……テスト直し」
今度は9教科。これはかなりしんどい。
最悪だ……。
「また同じメンバーで協力してやろうな。忘れるとゴンに河井、怒られるぜ。場所は……」
「あのさ!」
もうはっきり言わなくちゃいけない。
「集まるのはいいんだけど……老人会館は良くないよ」
「わかってる。今度は昼間だからさ。日曜に電車で出かけよう」
電車?
1989年、僕は初めてこの街から出ることになる-。
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