第12話 理科の時間 -河井の炎上
高崎と雑談をしながら、早歩きで科学室に向かっていた。
僕は焼却炉のことを考えていた。というか毎日数回は考えている。もし焼却炉が壊されてしまったら?無くなってしまったら-
焼却炉の中のゴミは用務員さんが、放課後燃やしていることがわかった。クラスの数人に聞いても燃えているのをほとんど見たことがないと言う。
誰も興味を持っていない。当たり前だ。逆に持っていたら怖い。
部活をやっていない僕は、家に帰って忘れ物をしたフリをして、遅い時間に学校にやってきた。
焼却炉のゴミが、勢いよく音を立てて燃えていた。
こんなの即死だ-
蓋は開いていた。赤い炎が見える。轟々と燃えている。近づくのも怖かった。
もし僕が焼却炉に入るのだったら、ゴミがたまっていない時。そして夜か朝、誰も人がいない時に入ってみるしかない。
でももう少し先でもいいかなと思った。
むこうでは、僕は片想いする相手もいないのだから-
「聞いてる? 河井?」
高崎が話しかけていた。
「あ、あぁ」
「今日さ、ガスバーナー使うんだよな」
「あ、あぁ」
僕は適当に答えた。話をほとんど聞いていなかった。
「俺、あれ苦手」
今日、とんでもないことが起こる。
でも僕はまだ、このときはなにもわかっていなかった。
学級委員長の声かけもあって、みんな早めに科学室に移動して座っていた。
少しでも遅れたら、全員廊下に正座させられる。前の時間に何があっても、だ。
こないだなんてガスバーナーのホースで全員頭をひっぱたかれたんだ。びっくりした。
鞭の変わり?理科の道具で?
理科の先生なんだから、理科の道具とか大事に扱わないの?大事に扱えと矢作先生仰ってましたよね?………ねえ?
実験は理科はつきものだけど、僕は今日初めてこちらの世界で実験に参加する。
みんなとても緊張しているのがわかる。
こないだの顕微鏡を使う授業は楽しかった。あれは実験とは言わないだろう。生物のときは楽しそうに教えてくれた。これがアメーバーですとかそんな授業。
矢作は比較的穏やかだったので、そうでもないじゃんと思ったくらいだ。
でも火を使う実験はヤバいらしい。噂では。今日は気をつけないといけない。
水などを沸騰させるには、二、三年になると、時間も短尺できる強力なガスバーナーを使う。一年生のときはアルコールランプらしいけど。
三脚の台の上に網を置いて、ビーカーやフラスコの水を温めるやつ。今日はそれをやる。
「え? 僕が当番なの? ガスバーナーの?」
「そう。 あたしこの前、顕微鏡セットしたじゃん」
僕たちの班で、火を点けたり消す係は、その日は順番で僕だと知った。
班長、記録、道具準備係とか役割があるんだ。それが右回りで回っていると。
いや、知らないよ。
「おい、そこの眼鏡。お前はここの班なのか?」
実験の準備中、坂上楓は矢作に声をかけられていた。なのにやつは何もせず黙って座っている。見ていてこっちがヒヤヒヤする。
大きな四角いテーブルに五人ずつのグループで座っていたんだけど、楓のところだけは六人になっていたんだ。
「そこ、四人だな……隣に移動しろ」
僕たちの班の一人が、今日欠席していた。
まじかー
楓が僕たちの班に、そろそろと動いてきた。そしてなにも言わずに座る。
「なんの係にする?」
班長が話しかける。僕はピーナッツとかなんとか言われたばかりで、頭にきていたので無視をしていた。坂上楓は何も言わない。
「……私と一緒に記録係でいい?」
「はい」
即答。なんだこいつ。
順調に進んで、どの班もガスバーナーの火をつけ、ビーカーを温めていた。
緊張はしていたけど、みんなのフォローもあって、僕は上手く火をつけることができた。実はガスバーナーで火をつけたのは初めてだった。向こうの世界では僕はちゃんとやってこなかったし、先生も実験をビデオで見せて終わることがあるから。
あと少しで沸騰するというとき-
「火を小さくしろ!」
矢作の声がした。どの班も一斉に火を小さくした。
僕はガスバーナーを少し手前に引いた。回そうとしても、なぜかガスバーナーの絞りが固く感じてすぐに火を小さくすることができない。
「あれ? 回らない?」
「河井、早く小さくしないと」
言われなくてもわかってる。結構固いんだよ。右にも左にも回らない。さっきはよくわからなかったけど。てか、やってもらったようなもんだったんだ。
僕は焦ってきていた。それで、僕は絞りを思いっきり回してしまった。
火がたちまち大きくなった。
「あっ!」
それで、班の男子が響く声で言ったんだ。
「河井、逆!」とかなんとか。
僕は多分パニックに陥っていた。早く消したくて、とにかく絞りをひねった-
ゴォーっとガスバーナーの火が一気にでかくなって、ビーカーくらい高く火が立ち上がった。
「うわぁ!」
って今度は坂上楓が言った。奴は後ろに下がり椅子をひっくり返した。近くの班が僕たちを振り返る。
「火を消せ~!」
ものすごい勢いで矢作が叫んだ。僕もそうしたいんだけど、火に近づくのが怖い。
目の前が真っ白になった。
なぜか燃えている焼却炉までが目の前に浮かんできた。
「火を消せ!」
もう一度声が聞こえたけど、わけがわからなくなっていて、僕は矢作のほうを見たんだ。
矢作は凄まじい形相だった。
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