第20話 楓のお見舞い 2

「どうしたのよ! 健太、大丈夫? お友達は平気?」


 僕が大声で叫んで、パニックになったため、お母さん2号が心配して階段をかけ上がってきた。

「……なんでもない。大丈夫だよ」


 このアパートはテラスハウスみたいな感じだねと楓が教えてくれた。

 一階と二階がある小さなアパート。

 お隣さんとは壁だけが繋がっていた。


 そんなことより…………自殺って。


「聞きたくない聞きたくない。わー! 聞きたくない」


 僕は耳を塞いで念仏のように、聞きたくないとひたすら唱えた。


「落ち着けよ」

「落ち着いていられるか! 僕の叔父さんもこれから事故に遭うっていうのに」


「……なにそれ?……」


 僕はこれから先、起こることを涙ながらに説明した。そのことで今日休んだことも。


  楓は、僕が矢作に会いたくなくて休んでると思っていた。自分にも責任があると思って、お見舞いに来たらしい。

 こいつ良いところもあるじゃないか。


「なるほど。西里老人会館は未来で名前が変わっていて……そこの外階段でふざけて遊んでいた中学生たちと階段が一緒に崩れ落ち、子供時代の君の叔父さんが下敷きになる……知らずに君は昨夜そこに侵入した」


 淡々と楓が言った。やっぱり彼は少し年上らしく落ち着いて見えてきた。


「建物の色とか看板とか違うけど、植え込みの松が一緒だから気づいたんだ。松は未来では大きくなってるけど。あのニュースは許せなくて……頭から離れなくて……ネットで何回も検索して、場所も行ったから」


「なるほど……ところで今僕たちは、西里町の西里中学校に行ってるけど、未来では合併して市になってるの知ってるかい?」

 

「あ。僕がいた中里市?」

「そう。君のいた中里市は、ここ西里町と中本町が合併したんだよ。平成になってから」


 そうなんだ。よく知らなかった。



 なんとなく知ってる道もあるんだけど、未来でこの周辺はほとんど来たことがなかった。

 ただの住宅地だし。中里市は僕にとって大きい街だ。


 老人会館は、中里子ども公民館という名前で検索したけれど、昨日は夜だったこともあって目の前にあってもすぐにはわからなかった。

 

 あの壊れかけた階段がなかったら、今も気づいてないだろう。


「広樹おじさんを助けたいんだ」

 僕は涙目になっていた。まさか楓に相談するなんて……。


「うん、俺も助けたいよ。君のおじさんも、このクラスの-」


「わー! 増田さんじゃないよね? 増田さんじゃないと言ってくれ! もし増田さんならなんでも協力するよ」


 僕はなんとなく流れで、もう増田さんなんじゃないかと決めつけていた。自殺するのは99%、増田さんだと。だってドラマとか小説ではそうじゃないか。

 僕の一目惚れした相手がそういう悲しい運命になってしまうんだと-

 

 楓は分厚い眼鏡のせいで、常に無表情に見えていた。笑ったりしないし。

 つまり怪しかった。でも今日はよく笑っている。こんな状況なのに。


「誰だと思う?」

 楓は意味深にニヤリとした。


「そんなもったいぶる話じゃないだろ! 好きな人を当てるんじゃないぞ」


「わかったよ…………僕はクラスのみんなに嫌われたかったんだけど、なんだか……誰も僕をいじめないんだ」


「え? なんの話?」


「不気味みたいで距離は置かれてたけど」


それはそうだろう。


 楓がドッジボールで、ボールを変なところに飛ばして取りにいかなかったり、理科の実験でおおげさに椅子を倒したり……他にもいろいろやらかしていた。

 わざとなのか?


「でもみんな意外と親切にしてくれる。可哀想だと思っているのかな?」 


 それは知らないけど。こっちのクラスはみんな親切だなと確かに感じていた。


「僕が未来にいたクラスよりは皆優しいね」


「俺もそう思ってた……じゃあ彼は誰にいじめられて自殺したんだって……」


 え?彼?…………男なのか。

 いじめ?


「自殺するのは増田さんじゃない」


「…………」


「上原駿なんだ」


え?


「嘘?……」

 そんなことって……。


 忍びこんだ老人会館ではとても楽しそうにしていた上原君ー。


 嘘だと言ってほしかった。

 

 


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