間章二

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 フォーグル襲撃から三日後の総督室にて。

 ラガトは、グレゴリーから提出された報告書を読んでいた。電子ファイルをホログラム化して、浮かび上がっている光る文字を目で追う。ホログラムは、部屋を暗くする手間が発生するが、一緒に立体図を浮かばせることが出来る点が気に入っている。

 ラガトは一通り目を通して、ホログラムを閉じた。報告内容で気になった点は、フォーグルが執拗にテオ・ルットマンの機体を追ったということだ。イレギュラー化した機械獣は確かに都市侵攻より、都市の戦力を削ぐことを優先する。だがしかし、一つの機体を粘着的に追いかけることなど聞いたことがなかった。

 ——もしや、機体番号を識別したか。

 ルットマンが討伐してきた機械獣は数知れぬほど多い。機械獣が討伐されるまでに主眼カメラでルットマンの機体番号を捉えていたのなら、番号が共有されていた可能性だってあるだろう。そう仮定した場合、今回フォーグルを送ってきたのもうなずける。レフォルヒューマンによる単独討伐が不可能な機械獣。レオンをトリムアイズ討伐で動けない状態にし、狙撃手がいない状態を狙ったのだったら。

 奴等は、確実にルットマンの命を狙っていた。

 しかし、機械獣にとっての誤算はレオンと同程度の実力を持つ狙撃手がいたということだろう。そのため、フォーグルは狙撃された。

 いや。狙撃されるところまで計算されていたか……。

 ラガトは頭を抱えた。

 もし事実なら、機械獣は人類が考える数倍狡猾だ。

 フォーグルが火炎に覆われ、ルットマンが油断したところをレーザー光線で攻撃した。だとすると、AIの高度化が予想以上に速い。

 ラガトは疑問に思った。ここ数か月の機械獣の改良具合はあまりに不自然だ。

 本当にアルテミアからなのだろうか。大陸間戦争という大戦争時に機械獣の生産拠点にしていたのがアルテミアだ。大規模な生産工場だったことが容易に想像できる。しかし、その大規模な生産ラインをこの短期間で何度も作り変えることが出来るだろうか。アルテミアに人がいるいないに関わらず、ことあるごとに生産ラインを作り変えるのは非効率すぎる。大規模生産拠点は、より多くの数を生み出すことにこそ真価があるのだから。

 ほかに生産している奴がいるのではないか。体内で機械獣を生産でき、状況に応じて設計や搭載するパーツを変更できるような機構を備えた巨大な機械獣が。

 ラガトには、思い当たる機械獣がいた。

 ラガトはグレゴリーに通信を飛ばす。着信音が三回なったところで、通話が繋がった。

「グレゴリー。地下都市の資料館からある資料を探してきて欲しい」

『地下都市は、いま、小型機械獣が潜んでいる危険があるため、閉鎖しているはずだが? そんなところに研究員を派遣することはできない』

「レフォルヒューマン数人に歩兵も何人か連れて行けばいいだろ」

 それを聞いてグレゴリーは笑ったようだった。

『まあ、普段訓練しかしてない人間の兵士にも、たまには役に立ってもらおうということか。いいだろう。それで、なんの資料を探してきて欲しいんだ』

「ギガセンテのだ」

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