第2話

僕のクラス1年3組は、男子12名、女子が26名の38名だった。

元々土佐商業自体、3分の2が女子という男子にとっては恵まれた学校だった。

僕と同じ中学の人間は4人いたが、このクラスには一人もいなかった。

友達作りに苦労した記憶のない僕は、12名のクラスメイトの男子から、まずはソフト部に照準を絞った。3組の男子にソフト部は一人だけだった。

僕と身長は同じくらいながら、ややがっちりとしたそいつは、高知市より西に約40キロ離れた漁師町の出身だった。ソフト部も野球部と同じく、一年生は坊主と決まっていた。そいつの髪はもともと少し茶色で、光が当たると一層赤茶けて見えた。目が悪いのか、人を見る時に目を細めて、訝しげにするそいつは森川といい、僕は睨まれているようで、入学当初はなるべく森川と目を合わせないようにしてたほどだった。12名のほとんどが出身校も地域も違う中、しかも15歳という思春期真っ只中の僕たちは、お互い腹を探り合ったり、共通の話題を見つけたりと大人のそれに近いやり方で友達作りに腐心した。

ソフト部に入る僕には、どうしても森川と仲良くなる必要があったので、積極的に話しかけたが、森川の牙城はなかなかのものだった。こっちの話に興味がないのか、いつも返事は「ああ」の二文字。決まって訝しげに見てくるので、その度ドキッとした。

しかも、僕より一足早くサッカー部の武田が森川と仲良くなっていて、いつも一緒だったから、僕は武田とも話を合わせながら、森川からソフト部の情報を仕入れなければならなかった。

僕は小さい時から、八方美人で誰とでも簡単に仲良くなれたし、陽気で人を笑わせるのも得意だった。

気分屋でもないので常にフラットに接することが出来るし、何より笑顔に絶対の自信を持っていたので、ファーストコンタクトで失敗するなんてことはあり得ないと信じ込んでいた。

思春期となり複雑な感情の機微が現れる年頃になるまでは…

僕がクラスで一番気が合ったのは、バスケ部の沖本だった。

沖本はバスケ部なのに背が低く、まるでNBAのスパッドウェブのように、俊敏なタイプだった。沖本も森川と同じ漁師町の出身だが、森川の地域よりも荒っぽいとされる町生まれだった。

ただ沖本は妙に垢抜けた感じがあり、学ランの着こなしもカッコ良かったし、持ってる小物とかもいちいちオシャレだった。沖本も冗談が得意で、休み時間になると、二人がギャグの応酬で周りを爆笑させていた。

沖本は音楽にも詳しくて、その知識のほとんどがテレビからだった僕に対して、沖本はレコードだけじゃなく、FMやAMといったラジオのエアチェックもしていて、当時の流行りの音楽はほとんど沖本から教えてもらっていた。

森川と武田は日を増す毎に、仲の良さを深めていたし、僕も沖本とつるむ中で、森川や武田を笑わせながら、話に入ったりでうまくやっていたが、時折見せる森川の訝しげな視線だけにはなかなか慣れなかった。



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