第6話ロイとクラスメイトと私

 私は皆に病気の男の子、つまりロイのことを話した。

なぜ私がロイのことを知っているか皆は驚いていたけど、直接の知り合いでは無いことを言って誤魔化した。今の人生軸ではロイと私は知り合いでは無いし、ロイの亡くなる日だって言ってはいけない。


 死という運命は変えようがない事を私が一番知っているから。


 すると、皆は心を開いてくれたのか口々にロイのことを話し出した。

ロイはこのクラスをまとめてたリーダー的存在で、困っている人がほっとけない優しく頼りのある男の子だったということ。そしてロイはもう治らない病気にかかってしまったことを話してくれた。


「ロイは、もう時間がないんだ」


 そばかす混りの天パの男子がそう口を開いた。皆はロイの死を悟ったのか次々とすすり泣く音が聞こえてくる。そして一回目の人生で私の髪を切ったアイラが口を開く。


「学芸会の出し物は、皆ロイの為にやりたいねって言ってたの。でも・・・」

「先生が、今度くる転校生の為にやりなさいって聞いてくれなくて」

「六年生になって先生が変わったから、ロイのこと知らないから、」


 アイラの後ろにいた女の子達も口を開く、今度来る転校生というのは私の事だろう。皆が私を迎え入れなかった理由も、学芸会の練習を嫌々やっていた理由も、私のことが嫌いだからではなく、本当はもうクラスには戻ってこないロイの為に何かしてあげたかったからだと分かると胸が痛む。


 アイラのことを私は横目で見る。

アイラが私を虐めていた理由はきっと、あの日、ロイが死んだからだろう。

私が来なければ、皆はロイに最後のお別れを言えたかもしれないから。アイラのやったことは傷害罪にも当たる非人道的なものだが、やりたくなる気持ちもわかる。私たち子供だって生きている人間だから。人を憎んだりするだろう。


 どうすれば虐めが起きないかなんて、無理な話だ。

大人が喧嘩をやめる日が来ない以上、私たちの虐めもなくならない。


 でも、もし私達が手と手を合わせる事ができたなら、大人も変われるのかな?


 私はアイラの隣にいた女の子に振り向き、こう言った。


「ラナ、ルナ、それに皆もこれからいうことをよく聞いてほしい。」


 ラナとルナは顔を見合わせ、どうして名前を知ってるのと驚いていた。


「もちろん、知ってるよ。貴方はアイラに、そばかすの君はウォンくん、

それにケビンに、ボブに、キャンディー食べているのはサリーでしょ?」


 皆は驚き、目を丸くさせ興味津々で聞いてきた。

まるで魔法使いを見ているような目で見てくるのだから面白くて。


「みんなのこと知ってるよ。性格も、嫌いな奴も、好きな相手もね。でもそれは全てロイが教えてくれたんだよ。皆、僕の大事な友達なんだって。」


 そう言う私を見つめ一人が呟く。


「・・・なんでマナ、泣いてるの?」


 あ。と気づいた時にはもうポロポロと涙が溢れてきて止まらなかった。

それはきっと、私も皆と同じようにロイのことが大好きだからだ。


 この外国で初めて優しく接してくれたロイ、困っている人がいるとほっとけない奴で私にも英語を教えてくれたロイ。三十回やり直している中で、一度だけ聞いた事があった。どうして困っている人を助けるの?と。ロイは一瞬困って照れくさそうに言ったんだ。


『生きた証を残したいんだ。僕が何故ここへ生まれてきたのか、どうしてこの運命を背負ったのか。理由付けしている途中なんだよ。だって僕が助けた人が僕を忘れてもその人は生き続けている。ほら、助けてよかったって思えただろう?』


 歯に噛むロイのその笑顔が忘れられなかった。

世界中がロイのことを忘れても、きっと皆も忘れないよ。皆がどんなに良い奴だってことを教えてくれたのはロイだから。皆はロイのことが大好きで、ロイは皆のことが大好きでだいすきで、最後に会いたい人達だってことも知っているよ。


 私じゃ皆の代わりにはなれないってことも。


「だからね・・・ロイの為に学芸会をやろう」


 私がロイの願いを叶えるよ。

この死という運命が変えられないと言うのなら、私がロイの願いが叶う未来をつくるよ。

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