破
【お、ええ感じのBGMやなあ。すいませーん!】
ジンナイの頭上から、またも人声が響きわたる。
興味深いのは、そのタイミング、および意味するところが、ジンナイの状況にピタリと符合するのである。今まさに、ジンナイは道沿いでボンゴを叩く女性に話しかけていた。
「申し訳ない、ここはどこなんでしょうか?」
「Oh Yeah~~ is coming...Yeah's brain's our hearts...Yeah~」
「あのー……」
女性はずっとYeahと言って取りつく島がない。ビートに負けじと近づくと、彼女のYeahはYeahでなく語頭に控えめな『N』が付いてNyeahであることが分かった。
【いやYeahやなくて
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!」
突如、女は雷に打たれたように絶叫した。
「ど、どうした!」
「『天の
【嘶き?】
「きゃああああああああああああああああああああああああ」
女は叫んでぶっ倒れる。
すると周囲の民家から、ラッパー、落語家、DJ、レゲエ歌手、ボサノバ楽団やらその他目の焦点の合っていない音楽家が多数飛び出してきて、一心不乱に各々の音楽ジャンルで神に歌い合った。
「ビバ! へどばん! ビバ! へどばん! ビバ、ビバ! ビバ! へどばん!!」
「なんなんだこいつらは……」
彼らは手に手に抱えたココナツを互いの頭でカチ割りながら、付着した白い成分を吸いつつトリップしている。島中の倫理が一様に崩壊し、島は神秘のディスコであった。
【いやヤバ~っ! 村の風習とんでもないことなっとるやんけっ、これ俺もヤバイんちゃうかな】
するとジンナイの肩を、こんがり焦げた豚足のような手がポンポンと叩いた。
「兄ちゃん、災難やなあ。兄ちゃんが今回の生贄やで」
「……い、生贄?」
「せやせや。この島では毎年
「何を言ってるか分からない。僕は妙齢でも乙女でもない」
「ちゃうねんちゃうねん」
男は背負っていた全長2メートルのホラ貝を担ぐと、先ほど倒れた女性の頭蓋をそれでパコーン、景気よく叩き割った。内容がどろどろに流出する。
「ひっ……!」
「乙女はこいつやで。ほんで兄ちゃんはね、この脳ミソ食べんねん。ほたら祟りで兄ちゃん死ぬねんな。でも安心せえ! 兄ちゃんの脳ミソも俺らが食べんねん。ビバ! へどばん」
「う、わ、わあああああっ!!」
ジンナイは村の外、山に向かって駆けだした。
【いや、なんやねんこの村~~~っ!】
間の抜けた天の声は、その緊迫感を除き見事にジンナイの心境を言い表していた。そしてジンナイは、夜空から聞こえるように思えたその天の声が、実は山中から響いてくることに気づく。
「はあっ、はあっ、はあっ」
「きゃはは、祠を壊すと死んじゃうよ、お兄ちゃん」
「何だお前はっ!!」
急に現れた少女を殴り飛ばすと、天の声に向かって山を昇り詰める。ジンナイと話が通じるであろう存在は、『天の声』だけだ。
背後からヌラヌラに日焼けした屈強な男女たちが、楽器を担いでピタリと追い駆けてくる。
「ミソ、食いなはれっ! ミソ、食いなはれやっ!」
【うわめっちゃ怖い! なんやねんこのゲーム! 助けて~ッ!】
ヤシの山林を抜ければ、祠に造られた特設ステージで、脳ミソ食べ食べアイランド発ヘビメタバンド『
頭にアンプを載せたババアが3人、喀血ながらにメタリカを歌い切ると、観客は彼らにリスペクトの毒霧を浴びせかける。
【お、なんや選択肢出てきた。えーと『祠を壊す』『演奏に混ざる』いやなんで混ざんねん! 『祠を壊す』~っ!】
「うおおおおおおっ!!」
ジンナイはオババからアンプを剥ぐと、木組みの祠に向けて全力で叩きつけた。なぜこんな事をしとるんか分からない。
バゴンッ!!
世界が震撼するような衝撃とともに、四囲の海からドレッドヘアの海坊主が4体ほど現れて、頭突きで島を粉々に破壊した。
「わ、わ、わああっ、なんでっ、なんでっ、俺はっ!」
「屁泥蛮サマやああっ! 兄ちゃん、これ、これ使わんかいっ!!」
島が散り散りになる寸前、豚足の手を持った男が、50口径の拳銃を投げてよこす。
「一発だけ、一発だけ入っとるからな!」
【お! よっしゃあ、これで海坊主倒すんやな。でも一発で行けるかなあ】
「自決しなはれっ!!」
【いや、そっちか~~~~い!! 後味悪~~っ!!】
ジンナイは混乱した。
なぜ天の声は面白がっているのか?
そも、状況が一つも理解できない。俺は、ここは、何が起きてる?
ジンナイが島の破片にしがみついたところを、荒れ狂う波濤が叩き潰し、脳ミソ食べ食べアイランドは夜明けを待たずして崩壊した。
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