再会談義 -AD.2022-10-23

 15年前のナルにそっくりな自称『成瀬ナル』と再び顔を合わせたのは翌日の昼間だった。

 どこで知ったのか俺のSNSアカウントへメッセージを送りつけてきた。

 今日の昼に話しをしたいと。

 正直業務中に面倒事を抱え込みたくないのだが、自称『成瀬ナル』が本当は何者か知りたいという好奇心が勝り、俺は彼女の提案に乗ることにした。

 指定されたのは俺の勤務先の近くの喫茶店だった。

 俺は店に入ると指定された個室ヘ向かいドアをノックする。

「はい。」と返事が返ってきたので中へと入る。

 そこは4脚の長机が部屋の中央に並べられ、周囲をパイプ椅子が取り囲むように配置された部屋だった。

 小会議室と言った雰囲気だが、実際ミーティング等で使用される部屋であり、俺もここで会議をしたことがある。

 その部屋の中で成瀬ナルはパイプ椅子に腰を掛けていた。

 服装は昨夜の奇抜な衣装ではなく、女性向けのパンツスーツ姿であり、髪形もストレートにおろしていた。

「へぇ~、昼間に改めて見るとサラリーマンらしく見えるね。」

 彼女の口から最初に出たのはそんな一言だった。

「まあな。」とぞんざいに答える。

 俺の中では目の前の女が本当にナルなのか疑いの方が大きい。

 そのため安易に信用する訳にはいかなかった。

「改めて聞くんだが、お前は一体誰なんだ?」

 疑っているとは言え、万が一の可能性も否定しきれない気持ちもある。

 そんな気持ちでは正常な判断ができないと思い、俺はあえてトゲのある言い方をする。

 ナルに対しても、丁寧な話し方はしていなかったが、ここまでぶっきらぼうでもなかった。

 もし本当にナルなら、悪い子としているな……。

「わたしは『成瀬ナル』だよ。でも同時に君の知っている『成瀬ナル』でもない。」

 

 同姓同名のそっくりさんってことか?

 ならなんで俺の前に現れたのか聞いてみた。

「君をする組織が狙われているから助けに来たんだ。」

 唐突な事実について過程を種略して説明されても、意味が飲み込めない。

 そんな俺の考えを汲み取れたのか説明が続いた。

「わたし達の組織は様々な世界が崩壊の危機にさらされた時に、それ回避するための人材を見繕い派遣する事をしているの。」

 なんだか怪しい方向に話が行きだしているが、人まずは聞いてみようと黙っている俺だったが、理解できたのは以下の様なことだった。

 多次元世界にまたがるそれらの世界を守護する組織が存在する。

 そこの統括者達は人智を超えた力を持っているが直接干渉する事を禁じられていた。

 そこで統括者達は素質のある者をスカウトし、エージェントとして送り込んでいるらしい。

 しかし、最近この世界崩壊の危機というものが加速度的に増えている。

 対応に苦慮した組織はかつて起用したエージェントの再起用や新規採用を大量に増やしているらしい。

 そしてそのターゲットに俺が選ばれたとのこと。

「なるほど、そちらの事情は分かった。」

 俺は手元のコーヒーに口をつけながら答える。

「で本題だが、俺が狙われている理由は何だ?」

 最大の疑問をぶつける。

 結局、相手側の都合などはどうでもいいのだが、なぜ俺が狙われているのかが問題なのだ。

 すると、成瀬ナルはすっと上半身をテーブルの上に乗り出す。

 そして右手を伸ばし人差し指を目の前に伸ばしてくる。

「それは君が一番ことじゃないかな?」

 と微笑みながら答える。

 なんというか幼さが残るその容姿に宿る笑みが、妖艶さをたたえている様に見えた。

 その笑みにドギマギしたが、その指摘に思い当たるところはないが思い当たることを考えた。

 それが表情に出たのであろう。成瀬ナルはため息をつきつつ指を引っ込める。

「覚えてないならしょうがない。それにわたしも嫌がる人を無理やりとか反対だから昨夜はあなたを助けたの。」

 どこか寂しそうな表情を浮かべつつ話す成瀬ナル。

 それに対し俺は申し訳ない気持ちになるが、見に覚えがない事は思い出しようがない。

 それを伝え、その場を後にしようと席から立とうとする。

 しかしそれを遮るように成瀬ナルは膝立ちでテーブルに飛び乗ると俺の腕を掴む。

 その感触はどこか懐かしい強さだった。

「でも、これだけは覚えていて。あなたが自分について自覚できないなら組織はまた実力行使を仕掛けるわ。」

 自分を自覚と言われても何のことやらだが、その勢いに押されて思わず「おお。」と曖昧な返事を返す。

「それにわたしは待ってるから。がこの世界を去った時からずっと。」

 その言葉を聞いた瞬間。俺の目の前に光が走ったような間隔と同時に脳裏に15年前の出来事がフラッシュバックしてきた。

 懐かしくも忌々しいあの日の記憶が。

 そして俺はつぶやいていた。

「つまりはそういうことかよ。」

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