別離回想-AD.2007-08-08

 下校後、俺はなんとなく町中をふらつき時間を潰した。

 ナルと買い物に行くことはそんなに珍しいことではないが、毎回どうも気恥ずかしさがあった。

 幼馴染みナルと一緒に出かける事が嫌だとか小学生じみた理由ではない。

 だが仮にも先輩他の男と付き合っていながら、俺と一緒に出かけるナルの神経がわからなかったことや、俺自身が他の人と一緒に出かけることが苦手だった事もある。

 別に学校などの集団行動が嫌いなわけではないのだが、放課後の外出などはなるべく一人でしたいと思っており、下校時に友人と一緒に買い食いしたり、臨時バイトへ行ったりする事は数えるほどしかなかった。

 ともかく、勢いとは言え約束してしまった以上、ナルと買い物に行く以外選択肢はない。

 ナルとの待ち合わせは決まって二人の家の間にある公園だったので、適当にぶらついた後、俺は公園のベンチで待つことにした。

 公園とは言うがそこはいわゆる児童遊園ではなく。昔、地元に住んでいた金持ちが自分の死後に所有していた庭園を公園として寄贈した、それなりに広いところであった。

 所々に設置された東屋やベンチの他、小規模な植物園や動物園なんかも設置されている。

 もっともそのせいかブランコなど遊具などは設置されていない。

 そんな事もあってこの公園で子供が遊び回る姿は稀でむしろデートするカップルの待ち合わせ場所として使われることが多かった。

 これについては繁華街に比較的近いこともあるのだろうが。

 そんなところで夕方に一人ベンチに座っているのはなんとも居心地が悪い。

 周りを見回せば恋人を待つ男女がちらほらいる。

 俺はベンチから立ち上がると目の前にある噴水を見上げる。

 この噴水は夜になるとライトアップされるのだが、日が落ちかけているとは言えまだ時間が早いためライトは点灯していない。

 その噴水の頂点を見つめながら少し物思いにふけていた。

「ゴメン!待った?」

 どのくらいそうしていたのだろうか。

 やってきたナルが俺の肩を軽く叩いて来た。

「待ち合わせ時間前だから気にすることねえよ。」

 俺は振り向きながら声をかける。

 ナルは眩しそうに右手を目の前に上げていた。振り向いた拍子に俺の影から顔を出した太陽を直に見てしまったのだろうか。

 しばらくして目がなれてきたのだろうか、ナルは手をおろしまじまじと俺を見つめてきた。

 いつものツーサイドアップに髪をまとめたナルの顔が間近まで迫り、俺は先程カップルたちを見たのとは別種のドキドキ感を感じた。

「キレイだね。」不意にナルが話しかけてくる。

 思わず何のことかと聞いたが、それはそれで雰囲気をぶち壊した様な気がした。

「君の目だよ。こんなに蒼くてキレイなんだから、サングラスで隠さないといけないのがもったいないよ。」

 そこまで言われて俺はサングラスをしていないことに気がついた。

「ナルの気持ちはありがたいんだけど。他の人はそう思っていないから……。」

 俺は慌ててサングラスをかけながらそう答える。

 ナルはゴメンと謝罪したが、ナルが悪いわけではないそれを伝えると買い物に行こうと歩き出そうとした。

 その時、不意にナルが俺の右手を両手で握りしめてきた。

 驚き振り向くとナルがなぜか泣きそうな顔で立っていた。

 慌てて俺は何か気に触ることをしたか聞くがナルは首をふる

 改めてナルの顔を見ると、ナルも俺の顔を見つめていた。

 しばし見つめ合っていたが、俺たちはどちらからともなく相手を抱きしめていた。

「好きだよソラくん。」

 小声で呟くナルに対し俺も同じ思いである事を伝えた。

 晴れて俺たちは付き合うこととなった。とは言え当初の目的はナルの家の夕飯の食材の買い出しだ。

 俺たちは買い物を済ませ、ついでに成瀬家にて夕飯をご相伴いただき帰宅することになった。

 一人で帰れるのだが、ナルもついてきた。

 帰り道一人で帰す訳にいかないからついてこなくていいと伝えたが、ナルはすぐそこまでとついてきた。

 そして二人の家の中間にある十字路まで来たところ分かれることにした。

 そして、俺は十字路へ足を踏み出した時、突如猛スピードの車が迫ってきていた。

 確認した時にはいなかったのに何故かと考えていると不意に俺は道の端に突き飛ばされていた。

 そして、俺の代わりに車にはねられたナルは帰らぬ人になった。

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