第4話 己のが為に見届ける男。


やなぎ 直江津なおえつ

御年80歳。


今日は偶々たまたま、お昼に寿司を食べようと町に来ていた。

既に剣術の道から一線を退き、御隠居生活も長く、毎日の代わり映えしない生活にも飽き飽きしていた。

残る余生、少年のように心踊らせる事も無いと思っていたのだが、目の前で繰り広げられている男同士の名乗りに目を輝かせていた。


これこそ、直江津の曾祖父が語っていた男同士の戦い。

己の全てをかけて挑む敵討ちではないか。

直江津とて命が奪われるかもしれない血生臭い所を、好き好んで見たい訳ではない。

だが、幼少期より曾祖父から聞かされていた男の戦いが今始まろうとしているのだ。

誰かが見届けなければこの戦いは不成立となってしまう。そうなると2度と立ち会うことはないだろう。


見届けなければ。

ワシがこの戦いを見届けなければ。


直江津は手に持っていたブリの寿司を食べる事も忘れ、2人の前に立つと咳払いを1つ。

そして高らかに言葉を発した。


「2人の名乗り、仇への思い。しかとワシが見届けよう!ワシがこの死合いの公平なる見届け人、柳 直江津である」


この宣言により、正式に【敵討ち両成敗法】の条件が満たされた。

即ち刀による命のやり取り、死合いの幕が上がったのだ。


一新と神六。

双方の今まさにお互いを討たんとする鋭い視線が一瞬、直江津に向けられる。


(やや、此が命のやり取りをする者達の視線か!なんと鋭い。まるでワシの見届けすら邪魔だと言わんばかりの視線じゃ)



直江津は知らない。

まさに、その見届けが邪魔だと思われている事に。





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