第3話 受けたる男もまた腕が立つ。


まだ少し痺れている掌を見ながら歩く男。

佐藤 神六。


背の丈は170と少し小柄ではあるが、顔立ちは整っており見た目も小綺麗である。

更にこの佐藤 神六。

刀の腕が立つ事でも有名である。

自ら研鑽し、己の業を鍛えるべく強者との果たし合いも積極的に行っている。

つい先日も有名な道場を1つ、その腕で破ってきたばかりであった。

ここまで聞けば、腕は立ち容姿は端麗。さぞモテそうであるがこの神六、態度が大きい事が玉に瑕である。

勝った相手には上から態度を示し、挙句の果てにその人がもっとも大事にしているものを奪っていくのだ。


所謂いわゆる、自分が1番である事の見栄を張りたい男なのだ。


そんな神六の背中に鋭い言葉が突き刺さる。


「お主は、我が道場を破った佐藤 神六であるな。

我が名は山田 一新。お主に破られた道場の門下生筆頭。破れた師範に代わり仇を討つ」


やれ何事かと振り返ると、そこには刀に手をかけ、鬼気迫る表情でこちらを睨み付ける山田 一新と名乗る男がいた。

神六はその男を一目見るなり、笑みがこぼれた。


(この男、出来る)


常に自分の腕を上げる為、強者と闘い続けてきた神六の目には今まさに、おのが命をしても我を討とうとする猛獣を見つけたのだ。


「いかにも、我が名は佐藤 神六。お主の敵討ちの意気込み見事なり。受けてたとう」


佐藤 神六は名乗りを上げ、強者と闘える事に喜びを覚えながら刀を構えた。



そして、後悔した。


この腰に差してる宝刀【電柱切り】

つい今しがた、本当に電柱が切れるか試し、ものの見事に根本から真っ二つにしてきたのだ。


【電柱切り】の方を。


今、腰に差している【電柱切り】は電柱に負け刀身が折れ、刃の無いつかだけの物なのだ。


つまり、命のやり取り等この刀ではできないのだ。


抜けば刀身の無い刀、刃を合わせる事も出来ずに負けてしまうだろう。

そもそも往来のど真中で、敵討ちの相手として名乗り返しておきながら、抜いた刀の刀身が折れて無い等、剣士としても恥ずかしくて死んでしまう。


抜けない。


この刀では、抜けない。


(ムリムリ無理無理むりー。絶対死ぬやん。

いや、一新が刀構えてきても受けられないじゃん。

受けたら死ぬよ俺。だって刃が無いんだもん。

仮に抜かずに切られるじゃん。

その後、刀見られて刀身がなかったら死して尚、社会的に死ぬじゃん俺)


佐藤 神六の心はひどく乱れた。


神六は鬼気迫る表情で一新を睨み返し、周囲に圧をかける。


(頼む。見届け人なんかくるんじゃねぇ。)


これが本心である

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