第2話 その男。仇を討つ為に立つ。
ひどい頭痛を堪え歩く男。
山田 一新は途方に暮れていた。
背の丈は180を越え、恵まれた体格をしているのだが、さてどうした事か今の姿といったら髪は乱れ、髭は延び、服装はだらしなく崩れていた。
「さて、これからどうしたものか」
自分が通っていた道場が道場破りにあい、先が見えなくなったのはつい先日の事。
これでも、一新は門下生筆頭と呼ばれ腕は確かであった。将来を有望視され、この先の就職も安泰だったのは、その腕と道場の看板があったからだ。
それがまさか、師範代が破れ道場を畳む事になるとは。「腕が立つ剣士」と「○○道場の腕が立つ剣士」では、まるっきり意味合いが変わってくる。
既に、道場破りの件は瓦版で拡散されており知らぬ人は居ない所となっていた。
そんな途方に暮れる一新の前に、見知った
やや、あの鍔につけられている携刀すとらっぷは、今人気の
この世に数個しかないと言われている限定品。
良くみればその刀、間違いない。
師範代の宝刀、立ちはだかる電柱すら斬り倒す【電柱切り】ではないか。
つまり奴こそが、我が道場を破った
我が人生を狂わした仇だ。
仇を見つけた一新は、身体が血に滾るのを感じていた。
「お主は、我が道場を破った佐藤 神六であるな。
我が名は山田 一新。お主に破られた道場の門下生筆頭。破れた師範に代わり仇を討つ」
高ぶる気持ちを押さえる事なく感情のまま、目の前の男に向かい叫ぶと、刀に手をかけその刃を抜こうとし思い出した。
この刀、竹光である。
※竹光とは、竹を削ったものを刀身にして、刀のように見せかけたもの
道場破りのあと、現実から逃避するように
そして支払いに困り、遂に刀を質に出したばかりであった。流石に丸腰では示しがつかない為、その質にいれた半分のお金で買ったのが、今腰に差しているこの竹光である。
つまり、命のやり取り等この刀ではできないのだ。
抜けば、竹などあっという間に刀に負けてしまうだろう。そもそも往来のど真中で、意気揚々と名乗りを上げ竹光を抜いてしまえば、剣士としても恥ずかしくて死んでしまう。
抜けない。
この刀では、抜けない。
(ムリムリ無理無理むりー。絶対死ぬやん。
いや、神六が刀構えてきても受けられないじゃん。
受けたら死ぬよ俺。竹じゃ無理だもん。
仮に抜かずに切られるじゃん。
その後刀見られて竹光なら、死して尚、社会的に死ぬじゃん俺)
山田 一新の心はひどく乱れた。
一新は鬼気迫る表情で佐藤 神六を睨む。
(頼む。名乗りを受けるんじゃねぇ。)
これが本心である。
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