第4話 終わりの始まり


『ペルンの冒険録』

 60年前にあった冒険者の黄金時代の中でも伝説的な冒険者の筆頭がペルンだ。

 冒険者は人々の困った事を助けるというのもあったが何より未知への探究心がすごかった。

 未知の大陸の発見、古代文明の解明、ドラゴン退治、魔物の国との壮大なる戦い、全てがあった、私の憧れ、夢、私以外にもこの本に影響されて冒険者になった人は思いのほか多いらしい、リオもその一人なのだという。


「ペルンの時代を頂点に冒険者時代は終わりへと迎えて行った」


 リオは私の本を読みながら悲しげに語った。


「これで良かったのだろうか」


 自分は生まれるのが遅すぎたんだと、親の反対を押し切って、貫いたこの選択が正しかったのか今となっては自信がないと、彼は一度だけ酔いながら話してくれた。


 ......私もそう思ってる、生まれるのが遅すぎたんだ、もっと前の時代に生まれていたら、冒険者の輝かしい時代に生まれていればどれだけ良かったか。


「クリン、冒険者なんて止めておきなさい」


 父からも母からも言われ続けた、その言葉、それは正しい、きっと間違えてはいないのだ。

 かつて有名だった冒険者がいつの間にか国家の中枢で役職を得ていた、またある者は反乱軍を率いて鎮圧された。


「.......」


 冒険者はこのまま歴史の中へと消えてしまうの?



 ■



 ある日、ギルドの扉に張り紙があった。


『冒険者登録証の新規受付禁止、ギルドによる依頼斡旋禁止が決まった事により、今月の末日に閉店とさせていただきます、今までありがとうございました』


 みんな怒りの声を荒げる中、ただ一人リオは寂しそうに見ている。


「そうか」

「リオ、どうすればいいですか......」


 リオは私の顔を見て、静かに微笑む。


「クリン、お前も薄々わかってた事だろう?」

「何を......」

「冒険者に先がない、それは需要がないというのもあるが、国家そのものが俺らを毛嫌いしているんだ、従わないならいらないってあれこれと俺たちを潰そうとしてくることくらいわかってただろう?」


 やだ。


「言いがかりはいくらでも見つかる、スパイ罪とか、軍事機密漏洩罪とか、社会風紀を乱しているとかな」

「......」

「もう、冒険者の時代は終わりだ――」


 やだッ!


「どうにかならないのッ冒険者が続く選択肢はないのかな!?」

「......残念ながら、もうないんだよ」

「だけどッ」

「子供みたいな我が儘を言うなッ!お前はまだ何にでもなれる......昔は冒険者だったって、笑い話にでもすればいいのさ」


 そんなことできない、出来る訳ないッ!


 そんな私の思いなんて無視して彼は手紙を私に渡してくる。


「......アレクという軍人に掛け合え、そしてそいつに俺の名前を出して登録証を渡せ、良くしてくれるだろう」


 そして私の顔に手のひらを開き――


「仲間にこんな仕打ちをするなんて......俺も堕ちたものだな」

「あ、待って――」

「お前との冒険者生活は久しぶりに楽しめたよ、最後に良い思い出を味わえた、ありがとうな――」

「や――」

「『羊眠り』」



 そういって彼は私の前から姿を消した。



 大陸諸国も同じように冒険者を締め付けて行っていく。


 諸国間で戦争が近づく中、冒険者が外部に情報を漏らす事を避ける為、そして滞在していた元冒険者を軍人として利用する為にありとあらゆる方法を用いて国家による執拗な攻撃が行われた。


 そして、そんな状態に異を唱える冒険者が奮起――


 それから冒険者による大規模な反乱が各地で立て続けに起きた、これは冒険者による、全てを懸けた抗いだった――

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