第3話 古き仲間
ある酒場で一人静かに酒を飲んでいると隣にスーツの男が座って来た。
「聞いたぞ、冒険者と兵士の諍いを止めたようじゃないか」
「......裏切り者が来たな」
「ははは、まぁだ怒ってやがる」
アレク、俺のかつての仲間だったが今では軍部のお偉いさんだという。
「......冒険者業はどうだ?みんなはどうしてる?」
「辞めたり、辞めさせられたり、死んだり......良い話は聞かないね、あぁだが若い新人が俺のパーティに入ったのは良い事か」
「話しには聞いてたが本当だったんだな」
「そっちはどうだ?」
「もう大忙しさ、何せ国を一つに纏めるのに俺たちに頼り切りなんだからな」
もともと冒険者は都市国家を行き来して成り立っていたが、バンレスト王国を筆頭にここ数十年で都市国家群は一つの国へと併合されていった、そんな事が各地で行われているといつの間にか大国と言われる国家がいくつか生まれていった。
「で、アレク、なんだ」
「......リオ、こっちに来い」
「断る」
「......お前は馬鹿じゃない、冒険者業が長くないなんてわかってるだろ?」
「ったくお前のしつこさは変わらない、パーティを組んでた頃とな」
アレクは溜息を吐く。
「お前の同期だっているんだぞ?臆病者のボロック覚えてるだろ?あいつ結婚するんだよ、みんな俺の所で元気にやってる、冒険者登録証を渡してくれればすぐに手続きを済ませる、だから――」
あぁわかってる俺はいつだって間違えた事をしてる気がする、しかし人生なんてどうあがいても後悔するものだ。
だから。
「俺は冒険者を続ける」
「......」
「悪いな」
「......想像はついてたさ、パーティだったんだからな」
カラン、と扉が開く音と共に場違いな足音が聞こえて来る。
「リオ、見つけたッ」
とてとてと走ってくるのは栗色の髪をした少女クリンだ。
「彼女は?」
「例の新人......集合する時間をいつの間にか過ぎてたらしい」
「くくく、そういえば前にも俺たち同じことをやらかしたな、ラクスナとメレンデスはめちゃ怒って機嫌を治させるのには苦労した」
そうだ、ラクスナは気の強い女で、メレンデスもまぁ小難しい親父だった。
だが、憲兵と冒険者間の抗争に巻き込まれて死んでしまった、それから程なくしてアレクもパーティを抜けた。
「しかし......こんな時代に......ふ、物好きもいたもんだな」
「だろう?」
クリンが来るのを待たずに立ち上がろうとすると、アレクは小声で話す。
「――近く冒険者は犯罪者として扱われる、身の振り方を考えておけ......あの子の為にもな」
「......あぁ」
「俺は忠告した......じぁあな、我が友よ」
肩を強く叩かれるとそのままアレクはその場を去って行った。
「はぁはぁ、疲れた......今の人は?」
「元パーティの一人、今はお偉いさんだよ」
「そう、なんですね......はぁはぁ」
「......お前は、冒険者を辞めるって考えれるか?」
クリンは息を整えながら、目を見開いて――
「それは考えられません......」
「......」
「やっぱり冒険者が好きです、数は少なくなって......周りからドンドンと白い目で見られて行っても、冒険者の皆は良い人で、そういうのを歴史の遺物にしたくない、そう思うようにもなってるんです」
「それは......きっとみんな喜ぶ」
そうか、俺たちを遺したいと、お前はそう思ってくれているのか。
なら良い、俺たちは旧時代の遺物として安心して冒険者を貫ける......こんな幸せな事は他にない。
「と、というかあの、ギルドに来てくださいよ、集合時間とっくに過ぎてるんですが?」
「......忘れてた」
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