第25話 公爵令嬢は飲みたい

 文章を書き終えるとちょうど紅茶とケーキが運ばれてきた。

机の上にケーキが置かれた後、空のカップが置かれ、淹れたての紅茶がカップに注がれる。その姿は執事が貴族に淹れる時と同じ動作をしていた。おそらく元々は貴族の家に仕えていたのだろう。美しい花柄があしらわれたティーカップは貴族の中で流行しているボーンチャイナであろう。平民が貴族気分を味わえるのが売りなのかもしれない。光の国には無いお店でとても新鮮だった。紅茶の香りに誘われたのか、鞄がモゾモゾと動き始めた。鞄の口が開くとひょっこり2本の角を持った赤い頭が出てきた。


「フィーナ、僕もそれ食べたい」


慌てて鞄を膝の上に持ってきて、周りから見えないように腕で角を隠す。


「食べていいから、人の姿になれるかな?」


ボンっと音がして、人の姿に変身する。角や翼を隠すことが出来るのに、尻尾だけ隠れていないのは不思議である。火属性無効の鞄を椅子の上に敷き、座るように促す。

シフォンを半分にとりわけて、別のお皿にうつすと、リオスは美味しそうに平らげた。紅茶を口に含み香りを楽しみながらリオスの様子を見ていると光の精霊が話しかけてきた。


(アンディーンが人の姿になるから、紅茶とケーキを食べたいそうじゃ)


アンディーンは姿を現さないと意思疎通が出来ないのだ。同じ精霊でも光の精霊と違うので戸惑う。人前でいきなり人が増えるのは目立つからお持ち帰りして宿屋で食べてもらうことにした。


(お持ち帰りするからアンディーンにそう伝えておいて)


茶葉は売っておらず、ケーキだけお持ち帰りをした。30銅貨を払ってお店を出る。

精霊がケーキを食べたがるとは予想外の出費だ。光の精霊が何かを食べているところを見たことがないので、精霊は食事をしないと思っていた。


(精霊は人のご飯を食べる必要が無いからのお。アンディーンは人の食事が好きなようじゃの)


光の精霊が心の声に答える。精霊によって個性はバラバラのようだ。雑貨店で貰った手袋を右手にはめてリオスと手を繋ぐ。冒険者ギルドの隣にある配達店へ行き、手紙を渡す。配達料の2銅貨を支払いお店を出る。


「今日寝泊まり出来るお店を探さないとね。リオスはいつもどんなところで寝ているの」


「あったかい所でいつも寝てるんだ!寒いところは僕たち弱っちゃうから」


「人間の寝るところだと、少し寒いかもしれないね。リオスよりもあったかいところはなかなか無いよ」


リオスの温度よりもあったかい所があるとしたら、火山付近だけだろう。


ドゴーン!ゴゴゴゴゴゴ!

 

 火山のほうから大きな音が聞こえた。音がしたほうへ顔を向ける。

 光の国と火の国の境にあるマウナロア火山が噴火していた。地鳴りのような爆発音とともに火口から噴石が飛散している。また煙が光の国の方へ流れている。火山近郊に人は住んでないが国の民が心配になった。

 リオスも手を強く握ってくる。小さいながらに不安なのだろう。


「とと様、怒ってる」


火山の噴火をみながらリオスが小さく呟いた。

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