第26話 公爵令嬢はいじりたい

 日が沈み始め、あたりが暗くなってきた。日が沈むと賑わっていた屋台通りは嘘のように静かになる。かわりに建物の中に灯りがつき、通りをうっすらと照らしている。火の国では夜ご飯を外食するときは宿屋で食べるようだ。宿屋の食堂が賑わっている。空いている宿屋に入り、銅貨30枚を払って部屋にはいった。リオスはベッドで寝るとベッドが焦げて壊れそうなのでリュックで寝てもらうことにした。


「今日は知らない場所、知らない人、知らないお店ばかりで本当に疲れたあああああああ」


叫びながらベッドに転がる。


「おつかれじゃのお」


光の精霊が丸い光となって現れた。リオスにも見えているようで目で追っている。


「お姉ちゃん、このしゃべる玉なあに?」


「タマじゃないわ!!!」


タマというワードに敏感な光の精霊である。そこはなんとしても否定したいらしい。


「アンディーンが早くケーキを食べたいと言っているぞ」


「アンディーン」


名前を呼ぶと紋章が光り、アンディーンが姿を現す。


「やっとケーキが食べられるのか。見ることは出来るのに食べれなくてとても口惜しかったぞ」


いきなり人の姿を借りた精霊が現れたからか、リオスは驚いていた。


「わあああ。こんどは水色の人が出てきた!!!」


「水色の人ではない。アンディーンだ」


「せっかくだから皆でご飯を食べよっか!部屋で夜ごはんを食べられるようにお願いしてみる!」


3人分のご飯を注文するため、部屋から出て宿屋のおかみさんに声をかける。


「すみません。肉料理を3人分お願いします。ご飯はお部屋で食べてもいいですか」


「3人分かいっ!?嬢ちゃんは育ち盛りの少年みたいな胃袋してるんだね!!元気なのはいいことだ!!」


肩をばんばんと叩かれた。たしかに3人分を注文するのはなかなか無い。大食いのように思われてなんだか恥ずかしい。部屋で食べるのも周りの目を気にしたからだと思われてそうだ。

 銀貨1枚を支払い、お釣りで銅貨85枚を受け取る。昼には銀貨5枚もあったのに贅沢をしすぎてもう無くなりそうだ。

 ご飯が出来るのを待ち、おぼんに3人分のご飯を乗せて、部屋へ運ぶ。

 部屋の扉に手をかけると話し声が聞こえてきた。


「やらん!やらんぞ。そんな目で見つめられてもケーキはやらん」


「食べるつもりはないよ!ただ見てるだけだもん!!」


部屋に入り見えた景色は、大の大人が子どもからケーキを取っているように見える。


「短い間にずいぶんと仲良くなって。ケーキは食後にしたほうがいいですよ!ご飯持ってきたので食べましょう」


ベッドの隣には、小さな机と椅子が一つずつある。

机の上に私のご飯を置き、椅子の上にリオスのご飯を置き、床にアンディーン様のご飯を置いた。


「人数分の椅子ないから、立ってご飯食べよっか。リオスは椅子にあるご飯を食べてね!」


「お手てぱっちん、ご一緒に」


「『いたーだきます』」

リオスと私が手を合わせ、食事の挨拶をして一緒にご飯を食べ始める。


「いやいや、まてまて、なぜ私が床の上なのだ!犬のように食べるべきなのはリオスであろう!!」


リオスはアンディーンの顔を見てキョトンとしている。


「子どもからケーキを取り上げるような大人は床で十分です」


アンディーンに言葉を吐き捨て、アンディーンのご飯の横に置かれたケーキが入った袋をつかみ、自分の膝の上に置く。


「ケーキ取ってるフィーナ殿じゃないかああ!!命の恩人に対して、態度が雑すぎません?今日の朝までは丁寧な態度でしたよね!?」


「冗談ですよ。一緒に机の上で食べましょう」


 私とアンディーンとリオスで食卓を囲む。

 後ろから生温い気配を感じた。アンディーンとリオスもその気配を感じたようで、3人一緒に気配がする方へ振り向く。


なんと ヒカリのせいれいが ひかりだし

なかまに なりたそうに こちらをみている!

なかまに してあげますか?


 はい

▶いいえ


3人とも見なかったことにして、食事を続けた。


「いやわし、べつに仲間になりたいとか一緒に食べたいとか思ってないし。ていうかアンディーンと違って人の姿もしてないから、食べる器官もないし。あ、もちろん人の姿にはなれるけど、なる必要がないからなっていないだけで、別にほんと一緒に食べたいわけじゃないからのおおおお」


 食事を終えた後、食器をおかみさんの所へ持っていく。宿にシャワーがついているか確認すると、シャワーつきの宿だったので、入ることにした。

シャワーを浴びながら、来ていた服をウォーターボールで洗い服を乾かした。

 

 部屋に戻ると大精霊アンディーンが子どものように泣いていた。


「うわあああああ。ケーキ楽しみにしてたのにいいいい」


リオスの口の周りにケーキの後がある。食べてしまったのだろう。


「お兄ちゃん、いつまでたっても食べないからいらないのかと思って。ふふ」


純粋な声で話しているが、最後に笑みを浮かべていた。確信犯だ。それをごまかしもせず乗り切ろうとは恐ろしい子。


「人のご飯が久しぶりで、思ったよりお腹いっぱいになって、それで食休みをした後に食べようとしたら食べられていたのだあああ」


泣きながら話すアンディーンが少し可哀想なので、明日もケーキを買うと約束した。

リオスにはごめんなさいをさせて、仲直りをさせた。アンディーンを紋に戻し、リオスは竜の姿に戻り鞄の中に入る。部屋の灯りを消して、月明かりに照らされたベッドに入る。寝ながら満月を見ると、兎の影が飛んでいるように見えた。目を閉じるとすぐに眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る