第24話 公爵令嬢は伝えたい

 換金が終わったので水竜の串焼きを食べに行く。


「水竜の串焼きはいかがですかー」


「串焼き2つお願いします」


「40銅貨になります」


 40銅貨を支払い、リオスと一緒に食べる。

 水竜の肉は今まで食べたどんなお肉よりも柔らかかった。しっかりとした肉感を残しつつ、繊細な肉質が柔らかで滑らかな食感を演出していた。


「おいしいー!!!」


 リオスは無邪気に食らいついている。

 お腹が膨れると眠くなったのか、うとうとし始めた。ポンッという音がすると、耳が竜の耳になっている。すぐにまたポンッという音がした。頭から竜の角が生えている。まずい。眠くなると竜の姿に戻ってしまうのだろうか。

 急いで屋台の後ろにある建物の陰に隠れると、小さな竜の姿になって眠ってしまった。どうしたものか……。抱っこをすると手だけでなく、体や腕も火傷をしてしまう。さすがにそれは耐えきれない。

 無事であることをお父様とお母様へ連絡するため手紙を書きに行きたいと思っていたが起きるまで待つか悩む。何より気になるのは人の目だ。人通りが少ないためバレていないが、火の国で炎竜と一緒にいたら神を盗んだ犯罪者にされそうだ。


「アンディーンを呼んで、水の檻に入れて運ぶのはどうかのお」


 光の精霊が提案をしてきた。水の精霊は呼ばないと現れないが光の精霊は紋から出入り自由なのだ。


「炎竜が水魔法に触れたら弱ってしまうでしょう」


「なら背中の鞄に入れて運んだらどうかのお」


「妙案だわ!採用!」


 鞄の中に炎竜を起こさないようそっと入れる。すると鞄が焦げ始めた。すぐには焼け落ちないが、時間の問題だ。急ぎ、雑貨店を探す。


「すみません。火耐性のついた素材を持ち運べる鞄はありませんか」


「お嬢ちゃん!火薬草の採取準備かい?それならピッタリのがあるよ。

火属性無効の鞄が銀貨3枚で、火耐性の鞄が銀貨1枚だ。」


炎竜なので寝ている間の涎が炎とかあるかもしれない。そう思い、火属性無効の鞄を購入することにした。


「火属性無効でお願いします」


「銀貨3枚だ。サービスで火耐性の手袋をつけとくよ。火薬草の採取には必須のアイテムだ!ずっと触ってると手袋が焼け落ちるから、素早く採取するんだぞ」


「ありがとうございます」


少しでも火傷を軽減できるならありがたい。軍手が焦げたらまたここへ買いに来よう。

 建物の陰に隠れて、軍手をはめ、炎竜を火耐性の鞄に移す。すっかり焦げてしまった鞄は捨てることにした。鞄を背負い、手紙を買うため雑貨店に向かう。


 雑貨店の前につくと、手紙が数種類飾られており、どの手紙にも炎竜を思わせるマークがついていた。火の国らしい手紙だ。背中にいる炎竜と似ている絵がついた手紙と使い捨ての羽ペンを購入した。


「すみません。これください」


「20銅貨になります」


鞄から1銀貨をとりだして、渡す。


「80銅貨のお返しでーす」


「あの手紙を光の国へ届けたいのですが、配達店はどこにありますか」


「配達店は冒険者ギルドの隣だよ」


「ありがとうございます」


 手紙を書くため、机と椅子があるところを探すが、屋台が多く手紙をかけそうなところがすぐ見当たらない。

 屋台が並ぶ通りの端まで行くと、お洒落なカフェテラスを見つけた。女性客が多く、紅茶やケーキのようなものを食べている。

 光の国では貴族はよく紅茶やケーキを食べるが、火の国は皆が食べるのだろうか。

香ばしいアールグレイの香りが鼻をくすぐる。香りにつられてとても紅茶がのみたくなってきた。お店の前に立てかけてあるメニュー表をみて財布と相談する。


【メニュー】

紅茶200cc……20銅貨

・アールグレイ

・ダージリン

・カモミール

・アップルフレーバー


ケーキ1個……30銅貨

・カステラ

・シフォン

・パンケーキ


残金は銀貨1枚と銅貨95枚。贅沢をする余裕は無いのだが、海辺からここまで歩いてきた疲労を労うためにも、注文することにした。


「ご注文はお決まりですか」


「シフォンとアールグレイを」


「50銅貨になります」


50銅貨を渡して、2人用の席についた。椅子の上に起こさないようゆっくり鞄を置き、向かい側に座る。机の上に手紙を広げ、羽ペンを取り出す。


拝啓

陽春の候、お父様、お母様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。無事に帰ることはできましたか。

 さて冒険者フィーナにつきましては、火の国に流れ着き、恙なく過ごしております。お父様、お母様に多大な心労をかけたこと、心よりお詫び申し上げます。

 火の国から光の国へは陸路で帰ろうと思います。必ず帰りますので、ご安心ください。

 炎竜を祭る火の国では、手紙にも火の国らしい温かさがありました。この手紙を読んだお父様とお母様の心が少しでも暖かくなればと思います。

 末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。  敬具

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