第23話 公爵令嬢は通りたい

 町へ向かう途中、踊り狂った木に遭遇した。光の国にいた魔木は人を見かけると動きを止めて、普通の木のように擬態するのだが、狂魔木は人を見かけると襲い掛かってきた。正確に言うと踊り狂ったまま近づいてくるのだ。狂気である。歩く邪魔をしてきた狂魔木は片っ端から土球アースボールで引っこ抜いた。


「お姉ちゃん、この木から生えてる葉っぱ食べてもいい?」


「うん。いいよ!」


 炎竜の食事は肉食だと思っていたが、雑食らしい。狂魔木の葉を美味しそうに食べていた。運びやすいように狂魔木を解体し、小枝を落として、葉っぱと木は鞄にしまった。

 町が見えるところまで来ると、関所に行列が出来ていた。行列の最後尾に並ぶとリオスへ視線が集まった。赤い髪に紅い目が目立っているようだ。尻尾まで生えているとなおさらだ。人前では尻尾を隠して歩くようリオスに伝える。注目を集めているリオスの身分を証明しなさいと関所で言われたらどう対処すればよいか分からない……。

 光の国では経済を活発にするため同じ領地内の町移動には関所をおいていない。別の貴族が治める町へ移動する場合は、関所をおいているところもあるが、犯罪者かどうかを確認するだけで細かく身分を聞いたりはしないのだ。火の国も同じようなシステムだと有難い。


「はい、次ー」


 順番が回ってきたので、冒険者カードを見せる。気だるそうに検問を進めていた、検問官が冒険者カードを見て少しテンションを上げる


「ほう。フィーナとは水竜を倒した英雄と同じ名前じゃないか!」


同じ名前というか、同一人物だったがあえて言わなかった。正確には私が倒したのではなくアンディーンが倒してくれたのだ。すぐに冒険者カードを返され次の人の検問に移っていった。


「リオスの検問はしなくていいのですか」


「子どもは検問をしない。大人の付き添いがあれば大丈夫だ」


良かった。尻尾が生えていても子どもであれば許されるとは。無事検問を終え、町の中に入る。

 火の国に入ると、純白な街並みが広がっていた。居住用の建物は真っ白なペンキで塗られており、白壁にはカラフルな花が飾られ、さらに白さを際立たせていた。

 白い建物の前には、布と棒で簡単に作った屋台が並び、衣服店、装飾店、料理屋も全て、室外に品物を置いて客を呼び込みしていた。服や料理を外に置くことで、客の目に入りやすく、お店に入らなければ見れない・買えないという敷居の高さが無い。

 気軽に商品を確認できるのでとても良い経営方法だと感じた。火の国の領主と領地経営について談義してみたいものだ。


「今限定!水竜の串焼きはいかがですかー?1本20銅貨から食べられますよー!」


 水竜の肉を私も食べてみたい!と思ったが、リオスの前で食べるのは気が引けるので、やめておこう。魔木を換金するために冒険者ギルドへ向かおうとしたら、リオスが水竜の肉を食い入るように見つめ、そこから動こうとしない。


「リオス、これ食べたい」


きゅるんとした紅い瞳で見つめられる。平均的な食事が1食5銅貨なのに対して20銅貨は高いが、可愛いらしくおねだりをされると財布の紐が緩んでしまう。だがしかし現在の手持ちは5銅貨である。


「1本20銅貨だよ。買っていくかい」


「ごめんね。今5銅貨しかないんだ。冒険者ギルドで狂魔木を換金してからまた来よう!ね?」


「うん!!!」


元気よく頷いたリオスと手を繋ぎ、冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドへ入ると、換金所は順番待ちをしていた。受付をして、待っている間にDランクの依頼を見ていた。


【狂魔木採取】

1本(1.5m)……約50銅貨

ひび割れ・水濡れなどで報酬に変動有


【属性薬草採取】

属性薬草5束……40銅貨


<特徴>

火薬草・・・直接手で触ると火傷する。

水薬草・・・ぬるぬるして、素手では触りにくい

木薬草・・・高い木の上に生えている。魔木と共生している。

土薬草・・・土と同じ色になるので、見つけにくい。コケのような見た目の薬草。


【魔猪討伐】

・畑が荒らされ困っています。

報酬内訳

魔猪の皮……20銅貨

魔猪の目……5銅貨

魔猪の肉……5銅貨


「5番の方、換金所へどうぞ」


呼ばれたので換金所へ向かう。狂魔木の上に生えていた草はどうやら木薬草のようだ。

狂魔木10本と木薬草10束分で銅貨580枚ぐらいだろうか。頭の中で換金される金額を予想する。


「狂魔木と木薬草ですね。こちら銀貨5枚と銅貨40枚です」


予想より金額が低かったので、聞いてみた。


「狂魔木の状態が悪かったでしょうか」


「いいえ。木薬草が狂魔木に自生している状態で納品された場合は、1束とカウントできるのですが、今回は葉っぱとして千切られた状態なので金額が下がっています」


納得して銀貨5枚と銅貨40枚を受け取り、ギルドを出た。

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