第2章 火の国
第22話 公爵令嬢は異世界転生したい
目が覚めると、そこは異世界だった。中世的な西洋の建物が並び、人だけでなくエルフや精霊が町を闊歩している。ああ、ここは間違いなく異世界だ。
(起きて早々、妄想にふけるとは元気じゃのお。目が覚めてよかったよかった)
濡れた体で辺りを見渡すとどこかの浜辺に打ち上げられていた。背中の鞄が浮き輪の代わりになり、溺れずに済んだのだろうか。周りには人の気配が全くなかった。太陽が地平線から昇り始めている。濡れた体でなければ、気持ちの良い朝としてこの景色を楽しめただろう。
「皆はどうなったの?」
「みな無事じゃ」
「良かった。倒せたんだ」
光の精霊の言葉に安堵する。
「お父様や騎士長が倒したの?」
「いや。そちがアンディーンを呼び出して、アンディーンが魔水竜を倒した」
「え!!私、アンディーン様を呼び出したつもりなんてないよ」
「契約したからいつでも呼び出せるぞ。呼んでみたらどうかの」
右手を握り閉め、周りに手の甲が見えるように、右手を顔の前に振り上げ、精霊の名を呼ぶ。すると契約の印である右手に刻まれた紋が光りだす。水色の長髪に深海色の目をした水の精霊アンディーンが姿を現した。
「いやその動作ほんといらないから!」
「無事で良かった」
「アンディーン様、助けてくれてありがとうございます」
「魂に呼応しただけのこと。そなたの皆を守りたい気持ちはしっかり伝わった。呼び出された時には、そなたは気絶していてな。自分自身を助けてほしいという願いがなかったから、私は手の紋に戻ってしまった。だから魔水竜を倒した後、海に投げ捨てられたままになってしまったんだ」
「生きてるから大丈夫です。ほんとうにありがとう、アンディーン様」
「アンディーンでよい。敬語もなくてよい」
「ところでここがどこだか分かります」
水の精霊と光の精霊に場所を聞いてみた。
「ここは火の国だ」
「火の国って確か、魔炎竜を祭ってる国よね。こういう展開だと次は炎竜が暴れだして、討伐!っていうパターン!?」
「それはないのお。炎竜は人好きで有名だからのお。人の姿をして会話もするらしいぞ」
「そうだな。炎竜が人を攻撃した話は聞いたことないな」
話しているとお腹が鳴った。どこに町があるか確認しなくては。腰にある鞄の中身を確認し、いくつか魔法陣がダメになっていたが、高級な魔法陣とお金は無事なようだ。討伐報酬を受け取っていないので、残金は銅貨5枚。一食分のご飯代しかない。
風魔法を使い、上空から町がどこにあるのかを探す。空からみると少し大きい町があった。疲れていたので、上から見えた一番近くの町まで歩いて向かうことにした。
林の獣道を歩いていると、小さな男の子の姿が木の陰から見えた。赤い短髪に紅い目をした少年がじっとこちらを見ていた。近くに大人の姿がなかったので、心配になり話しかける。
「こんなところに一人でどうしたの?」
急に話しかけたからか、ビクッとなって木の陰に隠れた後、おそるおそる出てきた。姿を現した少年には尻尾がついていた。
「お姉さんが空を飛んでるのが見えて、仲間かなと思って……。それで……」
なるほど。私が空を飛んでいたので、空を飛ぶ何かしらの種族に見えたのか。私が知っている限りでは、空を飛ぶ人型の種族を知らない。
「光の精霊、空飛ぶ種族を知ってるかしら?」
「そうじゃのお。こやつはおそらく炎竜だな。髪の毛からたまに火の粉が出ておるからのお」
「炎竜!?」
「うん。僕は炎竜レイスの息子リオス!」
「私は光の国の冒険者フィーナだよ」
炎竜の視線に合わせてしゃがみ、怖がらせないように優しい口調で名乗った。
「お姉ちゃんも竜なの?」
「ううん。私は人だよ。空を飛んでたの、初級魔法の風球を使って浮かんでたの」
「そうなんだ!僕、人と仲良くなりたくてとと様に内緒で出てきたの。お姉ちゃんのこともっと知りたいな」
キラキラとした紅い目で見つめられ、純粋な言葉に胸がキュンキュンと締め付けられる。
「ありがとね!私もリオス君と仲良くなりたい。今から人の町へ向かうけど一緒に来る?」
「うん!」
炎竜の子リオスは元気よく頷いた。
手を繋いで歩いて町までいくため、手を差し出すと、嬉しそうに手を握ろうとしてくれた。
「あ、熱い」
リオスの手があまりに熱くて、手を引っ込めてしまった。リオスの尻尾がしょんぼりしている。
「ご、ごめんね。ちょっと熱くてびっくりしただけだから」
熱い手を我慢して、リオスと手を繋ぐ。手の火傷は
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