第21話 公爵令嬢はやっつけたい

ー翌日。

 カーテンの開ける音で目が覚める。日はまだ昇っておらず、外は少しずつ白んできている。太陽が起きていないのに起きる気になれないが、容赦なく侍女が起こしてくる。今日は魔水竜討伐のため、早朝から起きなければならない。身支度を整え、朝食を食べた後、ウィッグを被り冒険者フィーナとなる準備をする。父とは別の馬車に乗り、港町へ向かう。

 港町につくと、冒険者が列をなして順番に船に乗っていた。

 教官が乗船者の確認をしている。教官の隣にはギルド長がいた。アンソワ家の到着に気づいたギルド長が近づいてくる。


「この度は討伐作戦にご参加いただきありがとうございます。エドマンド・アンソワ様と一緒に戦うことができ、光栄です」


「いえこちらこそ、ギルドの人員をこちらに割いてもらってとても助かる。今日は必ずや魔水竜を討伐しましょう」


 お父様は軽い挨拶を交わし、アンソワ家で一番大きな船に乗り込んだ。お父様の後ろについていき、一緒に乗り込む。


 船が大きな汽笛を鳴らし始まる。そろそろ出向するようだ。

 最初は揺れをあまり感じなかったが、水の国に近づくにつれて次第に揺れが強くなる。船上にいるのは危険なため、船内の個室で待機する。

 揺れが激しくなった頃、一人の船員が叫びながら走り去る。


「戦闘準備ー!戦闘準備ー!戦闘準備ー!戦闘準備ー!」


 船上に移動しようと思ったが、どこに行けばよいかわからない。作戦会議を一緒にたてていたが、私が魔法使いの攻撃班なのか、治癒や手当を行う治療班なのか指示を貰っていない。とりあえず自分に出来ることをするため、全体の状況を見渡すことが出来る上空へ行くことにした。


「風よ、いでよ。風球ウィンドボール


 体を持ち上げ魔水竜の頭よりも高いところへ行く。全体を見渡すと、水の国と光の国の船の真ん中に魔水竜カリブデスがいた。囲い込んで攻撃をしているが、4メートル前後の大魔魚に邪魔され海に落ちたり、波に押し返されてなかなか近づけないようだ。全長25メートルはある青い巨大な的を誰一人として攻撃できていなかった。


風球ウィンドボールでカリブデスを持ち上げてみるのはどうかの)


大きな巨体を持ち上げるには魔力をかなり消費するが、やってみる価値はある。持ち上げることができれば、水竜を陸に上げることもできる。魔力を集め、集中し初級魔法を唱える。


「風よ、いでよ。風球ウィンドボール!!!!!」


 魔水竜カリブデスの周りに風が吹く。

 丸く包むことは出来たが、持ち上げようとすると魔力がごっそり持っていかれる。持ち上げるのは困難だが、水から魔水竜を引き離すことができた。

 チャンスと気づいたお父様が叫び、海上に雷声が響く。


「複合魔法!撃て!!!」


お父様の号令と共に、炎嵐ファイアストリーム隕石メテオなどの複合魔法が打ち込まれる。しかし私の風球ウィンドボールが邪魔をして軌道をずらしてしまい外れてしまった。まずい。

 魔水竜は九死に一生を得たような顔で冷静さを取り戻し、風球ウィンドボールを使った魔法使いを探す。


「水竜に木の橋をかけ、つっこめ!!!!!!」


 騎士長の声に合わせて、木壁ウッドウォールの橋が魔水竜にかかる。


「うおおおおお」


槍使い、剣使い、盾使いが架かった木橋を一気に走り抜ける。魔水竜に一撃を食らわせようと、両足に力を込め、高くジャンプする。

 木橋は崩れ、槍使い、剣使いが魔水竜の懐に飛び込む。


「風伝流 序式 一槍両断イッソウリョウダン

「御剣流 風影」


 剣使い、槍使いの矛が初めて魔水竜カリブデスに届いた。魔水竜を足場にして、木橋や船へ戻っていく。

 魔水竜は悲痛な叫び声をあげ、空を仰ぐ。魔水竜の目が私を捉えた。風球から逃れようと、魔水竜は魔力を口に集め、一気に放出する。

 範囲の広い魔水竜の攻撃を避けきれず、正面から当たってしまった。風球ウィンドボールの魔法が途切れ、海に落ちる。かなり魔力を消耗し、海に叩きつけられた衝撃で意識が遠のき、体が沈んでいく。


(しっかりするんじゃ!フィナリーヌ意識を保て!死ぬぞ!)


水中に戻った水竜は回復と同時に、水中へ落ちた私のところへとどめを刺すべく猛スピードで泳いできていた。このままではお父様や皆の命が危ない。どうにかしなくては。気持ちとは裏腹に視界はどんどん霞む。


(アンディーンを呼べ!フィナリーヌ!!!)


脳内に響く、声のまま朦朧と意識の中で呟いた。


「アンディーン……」


呟いたと同時に私の意識は途切れた。




ーー光の精霊が見た景色ーー

 フィーナの右手には光の精霊の紋章とは違う紋章が刻まれる。


「高貴な魂に呼応し、契約は今ここに完了した」


フィーナを中心として海に大きな渦が出来る。魔水竜も渦には近づけないようだ。


「水は我が領地、水の上で好きにはさせん」


アンディーンが魔水竜の前に姿を表すと、戦々恐々として、水上へ逃げる。

突然、発生した渦に巻き込まれないよう人々は戦線を離脱していった。


「フィナリーヌがいるのだ!!頼む!!行かせてくれ!!」


「なりません。エドマンド様」


フィーナの父と騎士長の声がうっすらと聞こえた。


「水よ、あだなす者を捉え、我が守りとなれ。水檻ウォータージェイル


水の檻が魔水流を囲む。風球ウィンドボールと同じく水から分断したようだ。


「水よ、全てを奪いつくし、我が力となれ。水強奪ウォーターディプライブ


魔水竜カリブデスの水分を抜き取り、魔水竜は倒れた。アンディーンと魔水竜の戦いを見ていた人間が大きな声で叫ぶ。


「魔水竜カリブデス、ここに倒れたり!!!!!!!!!!」


「うおおおおおお!!!」


船に乗っている人々は右手を握りしめ腕を上げ、空に向かって叫んだ。

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