第19話 公爵令嬢は説得したい
ー翌日。
身支度を整えた後、すぐにアリアの元へ向かった。
「アリアー!買い物いこー!」
アリアは寝起きのようで、眠たそうに目をこすっている。
「朝から元気ね。ちょっと待って身支度するから。外で待ってて。」
従業員に魔法陣を納品してくると説明し、アリアが出てきた。
「先にギルドへ寄っていいかしら」
「うん!大丈夫」
ギルドへ行った後、家具屋、寝具屋、雑貨屋を回って、机や鏡、布団、カーテンを買った。6銀貨あった財布は銅貨10枚になってしまった。
買い物の帰り道に、後ろからギルドの試験官に呼び止められた。
「フィーナ殿に頼みたいことがある。光の国の依頼を受けていただけないか」
「えっ」
「海の魔物を討伐するために、討伐実績のあるDランク以上の冒険者を集めている。水の国と協力して討伐にあたる予定だが、木・土属性の魔法使いが少なくて困っているんだ」
「Dランクの魔物を討伐した実績はないのですが、大丈夫でしょうか」
「ああ、Cランク相当の白狐を倒した実力があれば何も問題ない」
「分かりました。そちらのギルドには建物を半壊させたりとご迷惑をおかけしているので、ぜひ協力させてください」
「助かる。詳細は冒険者ギルドで説明する、後で依頼を受けにきてくれ」
そう言って教官は走って去っていった。他の冒険者にも声をかけるのだろう。
「フィーナ、もうDランクになってたの!?」
「うん。桜師匠に色々教えて貰いながらなんとかね」
帰り道では討伐の話をしながら帰った。魔道具屋の前でアリアと別れ自室に戻り、買ってきた家具や布団をおき、カーテンの取り付けなどをした。風魔法を使うと、家具の移動は簡単なので、すぐに配置が終わった。
食事を済ませた後、冒険者ギルドへ向かった。
「光の国が出している依頼を受けに来ました」
「かしこまりました。こちらは特別依頼となり、通常の討伐報酬とは異なります。依頼条件を確認後、こちらにサインしてください」
【魔水竜討伐】
<概要>
水の国の国境付近で魔水竜カリブデスが暴れだした。水の国の港は大波にのまれ、大きな損害が出ている。
水の国の精鋭が討伐しようとしたものの、水と火属性の攻撃がきかず、剣使い・槍使いは船上という不安定な足場で全力を出すことが出来なかったため、返り討ちにあった。
魔水竜カリブデスは眷属の魔魚を従えており、水竜の元へ行くのも困難な状況だ。
勇気ある光の国の諸君、水の国と協力し、魔水竜カリブデスを討伐せよ。
<討伐報酬>
魔魚……5銅貨
魔大魚……10銅貨
魔水竜……攻撃を当てた者達で金貨30枚を山分け
<参加報酬>
船に乗る者に限り、銀貨5枚
船に乗るだけで平民の給料1.5か月分を貰えるとは驚きだ。
金貨30枚もなかなかお目にかかれない依頼報酬だ。その分危険が多い魔物というのが伝わる。条件承諾のサインをして、受付嬢に渡す。
「こちらの出発は2日後の早朝です。港に集合してください」
冒険者ギルドを出て、自室に向かう。
部屋に入りソファーに腰かける。実家の部屋と似たような色合いにしたので、すごく落ち着く。床には茶色の絨毯を敷き、腰の低い机とソファーを置いた。ドレッサーと姿見を用意し、これで身支度を整える時には困らない。
一息ついていると窓ガラスにコンコンと音がした。テレフォンバードが窓を叩いている。
窓をあけ、テレフォンバードを招き入れる。
ソファーの上で録音された音声を再生する。
「フィナリーヌ、もう5日も連絡をよこさないで、、、母はとても心配しています。支度金を持って家を出たと思っていたのですが、執事に聞いたら渡してないと言うじゃありませんか。支払いをアンソワ家につけて生活をすれば問題ないと思いましたが、いつまでたっても身に覚えのない請求書が届かなくて、母はとても心配しています。この音声を聞いたら至急、屋敷まで帰ってきなさい。
フィナリーヌ、一度帰りなさい」
最後の声はお父様だった。たしかに家を出てから連絡は一度もしていない。請求をアンソワ家には送らないと話したつもりだったが……。お父様は絶対!なので一度アンソワ家に帰ることにした。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
メイド達に出迎えられ、お母様が私にかけよる。
「本当に心配したんですよ。なぜ連絡一つよこさなかったのです」
「連絡をするお金を持ってなくて……」
「フィナリーヌ、あなた魔水竜の討伐に行くそうですね」
「なぜお母様がそれを……」
「母は反対です」
「まぁまぁ落ち着きなさい。食事を用意したから、食事をしながらゆっくり話そう」
父が母を宥める。両親と食堂へ移動し、食卓を囲む。
「なぜ魔水竜の依頼を受けたのか、教えてくれ」
口ぶり的にお父様も反対のようだ。
「それは……。民が困っているからです。水の国で主な被害が出ていますが、いつ光の国へ来てもおかしくないと思います。そして水の国との貿易が止まったままだと、光の国も影響が出ます。それを見過ごすことは出来ません」
「さすがフィナリーヌだ」
「こんなに立派に育って……。母は嬉しいです」
「実はわたしも国王直々に依頼をされてな。魔水竜の討伐へ行くつもりだ。フィーナという冒険者は私が乗る船に乗るよう調整するつもりだから安心しなさい」
私がフィーナという名前で冒険者をやっていることも全て筒抜けのようだ。連絡をしていなかったが全て情報が伝わっているに違いない。アンソワ家、なんておそろしい。
「さすがです。お父様」
「民を守るのは貴族の務め。行かねばならぬ。本当は女・子どもが戦うのは反対だが、フィナリーヌの気持ちはとても正しい。だから止めはせん」
「あなた、フィナリーヌのことは任せましたよ」
反対だった母も父が同行するならと賛成してくれた。
明後日の出立まで、討伐の準備を一緒にすることになった。せっかく部屋を借りたのに、まだ一回も寝泊りをしていない。貧乏暇なしとはこのことを言うのだろうか。
部屋に戻ると侍女が湯浴みの準備をして待っていた。湯舟に入るのは久しぶりなので、いつもより長めにつかった。
お風呂から上がると部屋着に着替え布団に入りすぐ眠りについた。
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