第18話 公爵令嬢は買い物したい

 腰の鞄をあけ、手持ちを確認する。銀貨3枚と銅貨9枚だった。部屋にはベッドしかないので、机や鏡が欲しい。アリアを誘って買い物へ行きたい。

 近くの料理屋で6銅貨の魚料理を食べて、昇格試験を受けるため冒険者ギルドへ向かった。


「Dランク昇格試験を受けたいです」


「フィーナさん、昨日はお世話になりました。昇格試験ですね。今試験官に確認してきます」


白狐が手に入らなかったからか、受付嬢が暗黒微笑を浮かべている。


「他に受験者はいないので、すぐ試験をするそうです。合格条件は、初級魔法を2つ以上使えること。試験会場でお待ちください」


 私が壊した試験会場は元通りになっていた。4日しか経ってないのに。私の町の住民は建築の巨匠でもいるのだろうか。


「フィーナ。4日目でDランク試験なんてさすがだ。聞いたぞ!Eランク試験の時は空を浮いたそうだな。ぜひその魔法を見せてくれ」


隣町で受けた試験のことは筒抜けのようだ。


「風よ、いでよ。風球ウィンドボール


風球で自身を包み、体を持ち上げ浮かせてみせる。浮いた状態で岩に水球を当てる


「水よ、いでよ。水球ウォーターボール


岩にべちゃりと水が当たる。今回は初級魔法でとあらかじめ言われていたので、騒ぎになるようなことはしないように、力もこめずに試験を行った。

「複数属性の魔法を同時に発動させた!?だと」


教官がわなわなと震えている。


「登録試験の時に使った炎嵐ファイアストリームも火と風の複合魔法なので、同じ感覚で発動させればできますよ」


「魔法陣の力を借り、炎嵐ファイアストリームという一つの魔法を発動させるのと、同時に二つの魔法を発動さえるのは別だ」


「そ、そうなんですね」


魔狐を倒すときに、土・風・火を同時に使っていた。小説の中の展開みたいで少しにやけてしまう。


「合格だ。次の試験も楽しみにしているぞ」


変な期待をさせてしまったが、目立って身元の調査をされたりすると困るので、お断りである。


(既に手遅れかと思うがの)


 脳内に聞こえた声を無視して、ギルドを出た。

 魔道具屋アリアの元へ向かい、クローズという看板を無視してお店に入る。


「アリア!一緒に買い物いかない?」


「どう見ても今、忙しそうにしてるでしょ。無理よ」


「そんなー。1日だけでいいから!おねがい!」


「5日後ならいいわよ」


「5日間、鏡なし、布団なしで生活するのはちょっと難しいかな」


「どこか部屋を借りれたのね。おめでとう」


紹介してくれた店に変な人がいたことについて一言言おうかと思ったが、本当に忙しそうなのでやめた。


「手伝おうか?」


お店に入って初めて顔を上げ、魔法陣を書いている手が止まった。


「すごく、助かるわ。魔法陣の大量注文が入ったのよ。なんでも水の国と光の国の国境である海に大きな魔物が出て、水の国と光の国で協力して討伐する予定らしく、大量の魔法陣を用意することになったの。ハロワで募集したところだったのよ」


「木の魔法陣と土の魔法陣を書けばいいかしら」


「さすがフィーナ。察しがいいわね。木の中級魔法100枚お願いするわ。1枚につき3銅貨支払うから」


「50銅貨で売ってるのに3銅貨だけなの?」


「何言ってるの。今回は大量注文だから値引きして1枚45銅貨よ。魔法陣の仕入れ値とかインク代とかいろいろ引くと多くても3銅貨しか渡せないの。本当は2~3銅貨が支払いの相場よ。本の複写で50銅貨なんだからこんなものよ」


 たしかに魔法陣を書くだけで10銅貨とか貰っていたら、誰も50銅貨で複写しない。

 机に向かい椅子に座って、中級魔法ウッドウォール(木壁)の魔法陣を書き始める。魔法陣を書いたら、その魔法陣がちゃんと発動するか魔力を通して確認する。魔法陣が光れば大丈夫だ。このタイミングで詠唱すると発動するので要注意だ。

 書いている途中にハロワの募集を見て来た人は2階に通されていた。

 私が100枚書き終わった時には、他の人達は帰っていた。


「お待たせ。ふぅ。やっと100枚終わったわ」


「ありがとう。アリアはちゃんと魔法通して確認してくれたよね」


「ええ。魔法陣を書くときの基本だもの」


「他に書くものはある?」


「いいえ。もう書くものは無いわ。後は魔力がない人が書いた魔法陣に魔力を通して確認するだけよ。思ったよりも人が集まったから早く終わったわ」


「手伝うわ」


 魔力を通す作業をしていく。数枚は魔法陣がちゃんとかけていなかった。書き損じの魔法陣は裏面に記入して50銅貨より安く売るらしい。

 作業が全て終わった後、記入した分と確認を手伝った分で銀貨3枚と銅貨40枚を受け取った。


「買い物にいけそうかしら?」


「いいわよ」


「ありがと!じゃあまた明日くるね」


 店を出た時にはすっかり日が沈んでいた。ベッドはあるが、布団がないので借りた部屋ではなく、宿屋へ向かった。

 夜ご飯を食べ5銅貨支払い、昨日と同じ宿に泊まった。

 明日はリリアと買い物だ。楽しみで少しそわそわしてしまう。眠れないかと思ったが予想よりも疲れていたので、ベッドに入るとすぐ眠りについた。

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