第16話 公爵令嬢は晩酌したい
「いらっしゃいませー!空いてる席に座ってくださーい!」
夕食時なので、席がほとんど埋まっている。空いてる椅子に腰掛け、メニューを見る。魚料理と肉料理を注文した。師匠は食べている間も白狐を膝の上に乗せていた。離れるつもりはないようだ。注文した飲み物と食べ物が机に並べられていく。
「フィーナと白狐に乾杯!!!!」
桜師匠がグビッと一気に酒を喉に通す。注文した肉料理と魚料理をとりわけ、食べる。昨日は酔狂なことをしてしまったので、今日はお酒は控えめに行く。
「フィーナ、明日はどうする」
「明日は、住める場所を探しとDランク昇格試験を受けようと思います」
「そうか。たった3日でDランクになるなんて、聞いたことがないよ」
「そうなんですね。小説の世界だと狩りに行った一日目に大物を狩ってFランクからDとかCランクに一気に昇格という話が多いのであんまりすごいという実感がわかないです」
「それは小説や物語の中だけだな」
「そうですよね。
たしかに光の国の建国神話に登場する光の精霊は、闇を打消し、消えた腕や目などなんでも治すことができるように表現されてのに、実際は怪我を治すだけで失ったものは治せないですし、あとは暗い場所を照らすくらいしか力ないですからね」
「物語や小説は過剰に表現されているものだね」
光の精霊がふんと鼻を鳴らした。
(おぬしが聖女になれば、物語と同じ力が得られるわ。取り戻す力は女神の力でわしの力ではないわ)
聖女の力が失ったものも取り戻すことが出来るとは知らなかった。
「桜さんは、明日どうされますか」
「そうだな。フィーナもDランクになることだし、明日の朝にはこの町を出ようと思う」
「そんなぁ……。もう行くのですか」
「ああ。ドワーフの国である土の国へ向かおうと思う」
「土の国は剣や魔道具、槍、防具など色々なものをつくり、色々なものが集まる国なので、きっと桜さんが探している剣も見つかると思います」
「ありがと。フィーナはこの先どうするんだ」
「そうですね。。私は…。ずっとこの国のために生きてきました。今は自由なのですが、生き方や考え方を変えるのは難しいので、この町に住む人の助けになるようなことをするつもりです。
領民としての生活を実際に送り、領主が解決するべき問題点があれば家に連絡をして改善を図ったり、ギルドの依頼も受けながら出来ることをしようかと考えています」
「フィーナが大精霊アンディーンと呼応した理由がちょっと分かった気がするよ」
食べ終わったらすぐ食堂を出た。
「桜さん、ごちそうさまです。短い間でしたが本当にお世話になりました」
「こちらこそ白狐を貰ったり、光の精霊と話したり、故郷に帰ったときの土産話がたくさん出来た。ありがとう」
師匠が手を差し出してきたが、無視して師匠の体に抱きついた。
師匠の豊満な胸に顔をうずめ、強く抱擁する。
「もう少し長居してくれれば、もっと恩返しが出来るのに……」
体を少し離して、俯いたまま小さく呟く。
視界には湿地帯で泥まみれになった靴が目に入る。
「今日は同じ宿屋に泊まりませんか」
「えっ!!若い二人がお酒の後に同じ宿って……」
「いえ!そういうことではなく、昨日洗濯のやり方を覚えたんです!最後に師匠の靴や服をキレイに出来たらなと思って」
「なるほど!それは助かる。水と風の初級魔法が使えるけれど、水魔法の繊細なコントロールは苦手なんだ」
「任せてください!水の精霊に教わったので、ちゃんとキレイになるはずです!」
「ん?水の精霊ってまさかアンディーン様に教わったのか?」
「いえいえ。アンディーン様ではなく、アンディーン様の使いの者というかなんというか……」
何を言えば良いか分からず歯切れが悪くなる。墓穴を掘ってしまった。ここまで言ったのであれば、いっそ話してしまったほうが早いだろうか。
「宿屋についてから話しますね」
宿屋へ行き、30銅貨ずつ支払い、二人用の部屋に通してもらった。
「さっそくシャワーへ行きましょう」
シャワーは3つ並んでおり、それぞれ外から見えないように木の板で囲われている。先にシャワーを浴びていると隣に人が来た。師匠がシャワー室へ入ったようだ。
隣からもシャワーの音が聞こえ始める。見えるわけではないが、師匠のほうに顔を向けると、師匠のシャワー室からは湯気が出ていた!!??なぜ師匠のシャワー室はお湯が出るのだろうか。
「あ、あの。桜さん!お水温かいですか」
「ちょうどいい温度だよ」
「どうしたら温かくなりますか」
師匠のシャワー室の水音がとまる。
「魔道具を右に握ってひねると、お湯になるんだよ」
言われる通り、魔道具を右にひねると温かくなった。こんなことも知らなかったのかと思われてないか考えると恥ずかしくなる。今更かもしれないが。
シャワーを浴びた後、一緒に部屋に戻った。師匠は部屋へ行くとすぐ白狐をさすっていた。師匠の部屋着は普段のカッコイイ姿からは想像もできないほど可愛らしく色気もあった。服装は薄いピンク色のワンピースで可愛いらしいのだが、予想よりも大きな胸の谷間が色気を出しているのだ。さすが大人は違う。
「水よ、いでよ。
2つのウォーターボールを宙に浮かべ、靴と服をそれぞれに入れた。ウォーターボールをぐるぐると回転させながら、昨日の大精霊アンディーンの話をした。『洗濯物のために大精霊が呼ばれた事例は聞いたことがない』と師匠にもたくさん笑われた。
他にも師匠の故郷である水の国の話や旅の話、私が平民になった話、可愛い服の話や食べ物の話をした。女子トークは途切れることがないのだ。
「そういえば、光の精霊に聞いた話なのですが、聖女の力は怪我を治すだけでなく、失った腕や目を取り戻すことができるらしいですよ」
「呼んだか」
「精霊様」
「かしづかなくてよいぞ」
「当事者目線で、光の国の建国神話が聞きたいですわ。伝えられている物語とどのように違うのか気になります」
光の精霊に話をするよう貴族言葉でお願いする。
「そうだのお。光の精霊の契約者として知っておいたほうがいいだろう。話してやろうかの。
ーーこれは千年前の話。
女神の恩恵を受けた聖女と魔神の恩恵を受けた魔人がいた。
聖女は光の精霊と契約し、魔人は闇の精霊と契約した。
聖女が魔人を倒した後、男をつくって建国した。おしまい」
「いやいやいや。仰々しい話の始め方をして3行で終わるってどういうこと!?」
「フィーナ殿は、精霊様の前だとかなり砕けて話すのだな」
「あ、いや。これはつい・・・。もうちゃんと話してくださいよ」
ベッドの中で精霊の話を聞いていたら、いつの間にか眠りについていた。
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