第15話 公爵令嬢は採取したい

 どんよりとした空気。湿った生ぬるい風が、体の周りにまとわりつき動きが鈍くなる。湖の表面には淀んだ緑が広がり、水面は全く光を通していない。体だけでなく気持ちまで淀んできそうだ。ここは湖ではなく呪われた沼ではないのかと思うようなところだった。


「ここには毒草が生えているから、毒草を採取しよう」


「毒草は、直接触ったりすると被れたりするのでしょうか」


「いや大丈夫だ。この毒草は口に含むと毒だが、触っても特に問題ない。形は薬草と同じで葉っぱの先がピンク色になっているものを探して採るんだ」


「はい」


師匠と湖の周辺を歩き、葉っぱの先がピンク色になっている草を50束ほど採った。

薬草と違って採りつくされておらず見つけやすいが、湿地帯の空気のせいでかなり疲れた。


「桜さん、そろそろ帰りませんか」


「そうだな。そろそろ戻ろうか」


師匠の手には、毒草とは違う種類の薬草が掴まれていた。私とは別の薬草を採取していたようだ。


「師匠は何を採取していたのですか」


「水薬草というぬるぬるした薬草さ。こういう湿地帯に生えているんだ。Dランクになったら採取することになるから覚えておくといい。水薬草は素手だと滑って採取できないから、手の周りを布で覆って採取するんだ」


見るからにヌメヌメとしていた。あまり触りたくないドロッとした見た目の草だった。


 冒険者ギルドに戻った時には日が沈んでいた。

 ギルドに入ると、ギルドにいた全員の視線が桜師匠の首元に注がれた。冒険者の一人が桜師匠に話しかける。


「お嬢ちゃんそれは・・・超レア素材、白狐じゃないか!!!」


師匠は誰にも渡さないぞと言わんばかりに高速で毛並みを撫でていた。

ギルドの受付嬢が桜師匠を見ながら『換金される方はこちらへどうぞ』と誘導した。

毛並みを触りたいのか、受付嬢の目がギラギラしている。先に魔狐5匹・大魔木・毒草50束を換金した。


「合わせて、銅貨330枚なので、銀貨3枚と銅貨30枚お渡しです。魔狐を5匹も討伐するなんてすごいですね!さすが上級魔法使いです。Eランクの依頼達成おめでとうございます。Dランクの試験を受けることが出来ますが、本日の受付は終了しているため、明日またお越しください」


「ありがとうございます」


桜師匠の首にある白狐を早く触りたいからか、早口に説明されながら換金を終えた。


「お次の方どうぞ」


ギルドの受付嬢が師匠を案内するが師匠は動かない。

そして師匠が口を開く。


「フィーナ。この白狐は私が買い取っても良いか。銀貨3枚が相場なので、銀貨3枚でどうだろうか」


「え!!」


「えええええええ」


私の声が受付嬢の声にかき消される。


「師匠にはお世話になっているので、差し上げます!と言いたいのですが、宿ではなく部屋を借りたいと思っているので銀貨3枚と交換でお願いします」


「お待ちください。フィーナ様。当ギルドでは白狐の素材を銀貨5枚で買い取りしています。ギルドへ・・・いや私に銀貨8枚で売ってください」


「俺は銀貨10枚出す」


なんだか競売場のようになってしまった。

白狐の素材に平民の平均給料2・3か月分を支払おうとするなんて……。


「皆さん!ありがたい申し出ですが、桜さんにはお世話になっているので、桜さんに売ろうと思います」


賑わっていた人だかりが瞬く間に散っていった。


「思ったより騒がしくなってしまったな。銀貨は4枚までなら出せるが、4枚で良いか」


「いいえ!3枚で大丈夫です。お世話になってますから」


「そうか!ありがとう。銀貨3枚と今日の夜ご飯も驕ろう」


 冒険者ギルドを出て、食堂へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る