第14話 公爵令嬢は従魔契約したい

ー翌日。

 窓から差し込む強い光で目が覚めた。太陽は随分と上がっていて、春の日差しが心地よい。窓を開けると爽やかな風が首筋を通り、髪をゆらゆらとなびかせる。

 こんなに気持ちいいのは、昨日水浴びをしたからだろうか。

 午後の集合時間に間に合うよう身支度を始める。昨夜干していた服は乾いていた。お気に入りのワンピースから洗濯した服に着替える。汚れが落ちた服の裾に手を通し、スカートを履く。腰に魔法陣と財布が入った小さな鞄の紐を巻きつけて、締める。その紐に短剣をひっかけて落ちないようにする。

背中には少し大きな鞄を背負う。紺色の靴を履き、窓の方へ向かう。窓ガラスに映った自分の姿を見ながら髪の毛を整える。

 身支度が終わったら、部屋を出て、宿屋のおかみさんの所へ向かう。


「おはよう。遅い朝だね。ご飯はどうするかい?」


「おはようございます。いただきます」


鞄から5銅貨を出して、おかみさんへ渡す。財布の中身は残り14銅貨だ。今日からはEランクなので、昨日よりは稼げるはずだ。魔木や魔物を狩る方法が分かったので、今日の宿賃くらいなら狩りの時間が午後からでも大丈夫だろう。

 しかし住居を借りるには、もっとお金を稼がなくては。賃貸の平均が月1銀貨だから、3銀貨くらい稼いだら宿暮らしから抜けられそうだ。今日は多めに依頼をこなそう。


「はい、お待たせ。おかみ特製、魔兎肉のソテーだよ」


「いただきます」


 ご飯を食べた後、すぐ冒険者ギルドへ向かった。

 冒険者ギルドへ入ると、桜師匠は既に到着していた。


「桜さん、お待たせしました」


桜師匠の元へ駆け寄り今日の予定について話す。残金が14銅貨なので依頼を多めに受けたいと伝えたら、快く承諾してくれた。


 ギルド掲示板Fランクの主な依頼は3種類だった。


【魔狐討伐】

・製服のため狐の素材が必要です。

報酬内訳

魔狐の皮……15銅貨

魔狐の目……10銅貨

魔狐の肉……5銅貨


【大魔木採取】

1本(1.5m)……約30銅貨

ひび割れ・水濡れなどで報酬に変動有


【毒草採取】

毒草10束……30銅貨


Dランクの討伐依頼は魔狼討伐依頼があったが、狐と生息エリアが違うため、受けなかった。


 早速、魔狐の生息地帯である湖がある森へ向かう。湖のほとりには毒草も生えている。ウィンドボールで浮く練習は今日はせず、背中を押して走って向かった。

桜師匠は慣れているからか、私のスローペースに合わせてくれていた。

魔力を使って浮くより走るほうがとてもキツイ。


「お待たせするのは悪いので、よければ先に湖のほとりへ行ってください。後から追いつきます」


 桜師匠に先に行くよう提案し、師匠は『分かった』と頷いて疾風のごとく駆けていった。湖までの道は整備されているので、道なりにまっすぐ進めば大丈夫なのだ。迷うことはないだろう。

 小休憩を入れながら走っていると、霧が出てきた。湖に向かうほど霧が濃くなっていく。先の見通しが悪く、スピードを出しすぎると道を歩いている人とぶつかってしまうかもしれない。少しスピードを落として走る。

 霧が濃く、不気味な気配がしたので、足を止めると、脳内に直接声が響いた。


(狐に囲まれておるぞ)


道を間違えたのか、湖のほとりではなく、狐の住処についてしまったようだ。

複数の狐の気配を感じたため、鞄から魔法陣を取り出して身構える。


(来るぞ)


脳内に響いた光の精霊の声と同時に魔法陣を発動させる。


「火よ、我が守りとなれ。炎壁ファイアウォール


火で辺りが照らされ、霧が少し晴れる。


魔狐6体に囲まれていた。魔狐のうちの一匹は毛が雪のように白く、他の魔狐と比べて圧倒的な存在感があった。

魔狐達はうなり声をあげ、じっと見つめ威嚇している。炎の壁の周りを歩きながら様子を伺い、炎が消えたら襲ってくるつもりのようだ。

消える前になんとかしなければ。心臓の鼓動がどんどん早くなり、焦りが募る。

 今まで戦闘をしたことがないため、どう戦えばよいか分からない。初級魔法で1匹を倒したとしても、同時に襲われたら、残りの5匹をどのように対処すれば良いか分からない。上級魔法の範囲攻撃が出来る魔法陣もあるが、自分の周りを囲まれると、範囲に自分自身も入ってしまう。なんとか狐の包囲網を抜けて、範囲攻撃の魔法を当てるしかない。しかしどのように包囲網を抜くことができるのか、思いつかない。

炎の壁がジリジリと燃え、さらに焦りが募る。


風球ウィンドボールを使って包囲網を抜けよ)


「風よ、いでよ。風球ウィンドボール


光の精霊のアドバイスに従って、風の球で全身を包み、空高く持ち上げる。

すかさず魔法陣を2枚取り出し、魔法を発動させる。


「土よ、我が守りとなれ土壁アースウォール


狐6匹を中級魔法の土壁で囲い込む。


「火よ、土よ、弾となり我が力となれ。炎弾ファイアバレッド


魔狐に複合魔法の炎弾があたり、狐が気絶して倒れる。

倒すと同時に、周りの霧が晴れた。霧は白い魔狐の力だったようだ。

安心すると気が抜けて全ての魔法を解除してしまった。


「キャアアアアア」


風球ウィンドボールを唱える暇がなく、地面に尻もちをついてしまった。


「痛っ。。光よ、癒す力となれ。光治癒ライトヒーリング


立ち上がり、腰に光魔法の治癒を施すと、春の嵐のような風が吹き抜ける。


「大丈夫か。何があった」


桜師匠が駆けつけてくれた。


「魔狐に襲われて、腰を少し怪我しましたが、無事倒せました」


師匠はあたりを見渡し、戦いの跡に息をのむ。


「あ、あれは白狐じゃないか」


白狐に近寄り、毛を触る。


「シルクのような柔らかい肌ざわり、高貴さを感じさせる美しい毛色。間違いなく白狐だ」


興奮気味に白狐の毛について、師匠が語り始めた。


「素材を売れば、普通の狐の100倍はする貴重な素材なんだ。」


「えええええ!」


ついに私の時代が来たようだ。たまたま狩りに出かけると、伝説の魔物ドラゴンやフェンリルに出会い従魔の契約を結んで、可愛いまたはカッコイイペットとして連れまわす。小説の中の主人公に私は慣れた!


「いや殺してるからの。従魔とか全然なってないからの」


脳内ではなく、姿を現し、話す。


「光の精霊様」


桜師匠が光の精霊にかしこまる。


「そこまでせんくてよいぞ。楽にせよ」


「はい。いかがされましたか」


「いやな、フィーナが白狐をペットにする妄想なんぞしていたから、ついのお」


「いいえ、ペットなら明るいタマがいるので大丈夫です」


「だれがタマだ!わしはタマではないわ!

そんなことよりフィーナよ、ペットが欲しいなら、なぜ昨日水の精霊アンディーンと契約しなかった」


「アンディーン!?フィーナ殿、水の大精霊と呼応したというのですか」


桜師匠が思ったよりも大きな声で言うので、私のほうが驚いてしまった。


「たしかに呼んだのですが、怒らせてしまって……。すぐ帰られました」


桜師匠がワナワナと震えている。


「大精霊アンディーンは、水の国のピンチの時に現れると言われている伝説の精霊。多くの民を救いたい、守りたいと願う気高い心を持つ者でないと呼応しないと言われており、危機が訪れた国の王女や国王が契約することが多い存在。そんな精霊を呼び出すことが出来るフィーナ殿は一体……」


洗濯物のために呼び出したなんて口が裂けても言えない。高貴な祈りや願いがその時はなかったなんて絶対に言えない。


「そんなことより桜さん、狐達どうしましょう」


話している間ずっと離れることがなかった桜師匠の白狐を撫でる手が片手から両手になり、さらに高速化した。白狐の毛から離れることをすごく惜しんでいるのが伝わる。


「町につくまでは、桜さんがずっと持っていても大丈夫ですよ」


「本当かあああ。では他の狐は運びやすいように解体しよう」


 桜師匠は白狐を首に巻きつけ、解体作業を始める。

 私も短剣を取り出し、慣れない手つきで、解体を行った。1匹の解体を終えると師匠は3体解体が終わっていた。2匹目の解体をしている間、師匠はずっと白狐を撫でていた。

 解体が終わった後、目的地である湖へ向かった。道中にあった大魔木を1本引っこ抜き、湖に到着。そこにはとても美しい水の精霊が水浴びをしていそうな綺麗な湖が広がって



いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る