第12話 公爵令嬢は妄想したい
食堂に入り、5銅貨の肉料理を注文する。
「今日は昇格祝いだ!私が出すからたくさん注文するといい。お酒も注文しよう」
「ありがとうございます!追加でぶどう酒お願いします」
手元にあるのは49銅貨。宿代が30銅貨で、ご飯代を5銅貨にしても残金14銅貨とすごく懐が寂しいことになる。少しでも節約できるのであればありがたい。
「Fランク昇格おめでとう!フィーナのこれからに乾杯」
周りと同じようにぐいっと1杯飲み干した。いつもは少量ずつ嗜むようにしていたので、気づかなかったが、私はお酒が弱いようだ。頭がぐわんぐわんしている。師匠はまったく問題なさそうだ。
「フィーナはこれからどうするんだ?」
唐突な問いかけに頭もろれつも回らず、妄想と嗚咽を垂れ流す。
「おほほほほヒック。私は悪役令嬢、リズ・リリアーン・リーベルト。通称、リリリ。第1王子に卒業式で婚約破棄をされ、爵位を剥奪され庶民となった者ヒックッですわ。冒険者に身を落とし、女神に選ばれ聖女の力を授けられ、魔王を倒す運命を定められた乙女ですのよおおおヒック。今ここに女神に選ばれし力の一部をお見せしましょうっくっ」
光魔法の
(無駄に我の力を使うでないっ。たわけ)
脳内に直接声が響くが無視をした。
周りにいた人の一人が、魔王役となり、即興劇が始まる。
「我は魔王ダル・ダルダイン。世界のすべてを統べる者である。我の支配に抗う者よ、覚悟しろ」
魔王と聖女の話は1000年前から伝わるおとぎ話だ。そのおとぎ話を現代版にアレンジした小説が庶民の間では流行している。もちろん私もファンである。
小説の中では、断罪され庶民となった令嬢が聖女に選ばれ、愛の力で、魔を浄化し魔王を倒し、再度王子様と結ばれるという物語である。
私もそんな主人公令嬢に憧れていた。いわれのない罪で断罪され、庶民になるところまでは一緒だが、聖女は別の人だし、魔王を倒す運命も今のところない。しかし今日くらいは夢をみさせてくれてもいいだろう。
周りも即興劇に合わせて、音楽を奏で、魔王役、王子役、悪役令嬢の騎士役などそれぞれ演じてくれた。
劇を終えたころ、私は意識を完全に失い、目が覚めたら井戸の近くで水をかけられていた。
こんな風に目を覚ます公爵令嬢など世界広しといえど私くらいだろう。
「フィーナ。起きて!宿へ行くよ」
食堂も閉店し、あたりは真っ暗だった。今日は湯浴みをしようと思っていたのに、もう桶屋も閉まっている。
「フィーナは本当に貴族だったんだな。まさかアンソワ家の令嬢とは思わなかったよ」
公爵令嬢とバレて一気に酔いが醒める。
「な、なんのことか分かりませんわ」
「光の精霊と契約してるのはアンソワ家なんだろ」
「劇の途中で見せた光は手品の一種で、火の魔法の一種ですわ」
「そこにいる自称、光の精霊が教えてくれたのは嘘なのか?」
「自称ではない。わしは長きに渡りアンソワ家と契約してきた光の精霊ぞ」
「なっ!あなた周りに見えるようにしたんですの!?」
「わしほどの高貴な精霊だと人に見せる・見せないの調整もできるのだ」
「何してるんですのおおお。公女と分かったら色々気を使われて大した理由もないのに誘拐や強盗に巻き込まれてしまうでしょうがあああ」
「大丈夫だ。誰にも言わないさ。約束しよう。それに私は探し物をしていて、この町に寄っただけだ。長居するつもりは無いから安心してほしい」
「桜師匠、ありがとうございます。どんな物を探しているんですの。本当にお世話になっているので、この町にいる間は一緒に探させてください」
「刀匠・宗近の最高傑作とされる月シリーズの刀を集めている。宗近の名を聞いたことはあるかな」
「いいえ、存じません。世間に疎くて」
「いや水の国で有名というだけさ。光の国では別の鍛冶師が有名だから知らなくても当然だ」
「わしは知っておるぞ。たしか三日月宗近、月山(がっさん)、日月護身之剣、七月剣、五月雨江、月一文字が最高傑作と言われる刀シリーズだったかの」
「精霊様、さすがです。その通りです」
光の球なので表情は見えないが、得意顔をしているに違いない。知ってて当然だという空気をまとっている。
「桜さんがこの町に滞在している間は、私も一緒に探します!」
「あぁ、よろしく頼む。ただ既に町の刀鍛冶屋の聞き込みをしたのだが、目新しい情報は無かったんだ。何か情報が見つかったら連絡してほしい」
「そうなんですね。鍛冶屋で情報がなかったらこの町には無いかもしれませんね」
話しながら歩いているとすぐ宿屋についた。桜師匠は別の宿に泊まっているため、午後、冒険者ギルドへ集合する約束をして宿屋の前で別れた。30銅貨の宿代を払って部屋へ向かう。今日は水浴びを絶対にしよう。服も洗いたい。
水浴び場を借りて、水浴びの魔道具シャワーに魔力を込め水を浴びる。そうすると上から水が降ってくるのだ。水属性の無い者でも使うことができるのが、魔道具のすごいところである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます