第11話 公爵令嬢は空を飛びたい

 魔木の採取を終え、薬草採取をするべく隣町へ向かう。


「隣町の森まで歩いて1時間くらいかかるから風魔法を使って移動しようか」


桜師匠の提案に頷く。

風魔法は他の属性と違い、攻撃には使えない。基本的に空気を当てているので、単体では威力がないのだ。しかし土球アースボール火球ファイアボールと一緒に使うことで複合魔法となり威力が増すのだ。そのため補助魔法と言われている。


「風魔法で空を飛ぶんですの?」


「いやいや。風魔法で空は飛べないよ。フィーナの魔力量なら出来るかもしれない。やってみたらどうかな」


「はい」


自分自身を包むイメージで風球ウィンドボールと唱える。少しだけふわふわと浮かぶことが出来た。


「おお。冗談のつもりだったんだが……。すごいじゃないか。風球ウィンドボールを任意の方向へ動かせそう?」


風魔法で空へ飛べるとは知らなかった。学校では常に壁に向かって魔法を打つ練習ばかりだったため、こういう知識は全然教えて貰えてない。社会に出ても使えない知識ばかりを教える小説の中の先進国のような場所だ。


「任意の方向に動かすのは難しいですわね」


任意の方向へ動かそうとすると、ゆらゆらと揺れてなかなか難しい。いつもは魔力を放ってすぐ消すため、魔力を出し続けるというのも難しい。

集中力が途切れ、風球ウィンドボールが消えてしまい、どんっと地面に落ちた。


「今後使えるようになったら、便利だから風球ウィンドボールで移動の練習しながら向かおう」


「師匠はどのように移動するんですの?」


「普通は自分を持ち上げることができないからね!追い風のように風魔法を出して歩きやすくするんだよ」


師匠が風球ウィンドボールと唱えると、風が舞い、師匠の5メートル先まで飛んで行ったように見えた。


「こんな感じかな。こうして移動すると魔力は多少消耗するけど、体力はあまり消耗しないんだ。コツは背中から太もも辺りまでウィンドボールを薄く伸ばして後ろから当てること」


「とても勉強になりますわ」


「魔力が半分になるまで、風球ウィンドボールで移動しようか。途中で魔木や魔物を見つけたら狩ろう」


「はい」


風球ウィンドボールでふわふわと移動し、師匠は歩いていた。

横に移動するより上に浮くほうが簡単だった。木より高く浮くと、自然の広大さに感動した。風球ウィンドボールのコントロールに自信がついたら、師匠と一緒にみたいと思った。


 少し先を見つめると、荷車が魔物に襲われているのが見えた。


「師匠。この先の馬車道で荷車が何かに襲われていますわ」


「荷車に護衛はいないのか」


「護衛用のような人は見当たらなかったです」


「そうか。心配だから私は先に向かう」


 桜師匠は『風よ、いでよ。風球ウィンドボール』と唱えると突風のように森を進んだ。

風球ウィンドボールで体を包み持ち上げる。上空から桜師匠と荷車の様子を見る。近づいて分かったが、魔物は目の赤い狼だった。狼の生息地は人里離れたところにある。普段は人前には姿を現さないのに、なぜ人通りの多い馬車道に現れたのか。

 桜師匠が剣を抜いて魔狼へ切りかかる。


真夢想流しんむそうりゅう 虧月之太刀きげつのたち


新月を描いた剣の軌跡が魔狼に当たる。とても綺麗な剣術に見惚れてしまった。

師匠に追いつき、荷車を押していた人に事情を聞くと、護衛として雇っていたDランク冒険者は魔狼を見ると逃げ出してしまったらしい。

狼は群れをなして行動するため、一匹ではない可能性が高いと思ったようだ。

逃げ遅れた商人は、狼から目を離すことができず、立ち竦んでしまったということだった。


商人を隣町へ送り届ける途中で薬草採取を済ませ、Dランク冒険者が貰う予定だった護衛の報酬と魔狼素材の報酬を師匠が受け取った。

私も薬草10束と魔木1本を隣町の冒険者ギルドで換金し、40銅貨を受け取った。


「Fランクの依頼を一定数達成しました。Eランクへ昇格されますか?」


換金後に受付嬢からランク昇格を案内された。


「昇格お願いしますわ」


「かしこまりました。魔法使いの昇格試験を行います。初級魔法を狙ったところに打ち込むことができれば合格ですので、力を入れすぎないよう気を付けてくださいね。よろしいですか」


登録試験の情報が届いているからだろうか……。受付嬢の圧がすごくて唾をのむ。

同じ失敗を繰り返さないために、事前に試験の内容を確認する。

 三つの岩に何でもよいので魔法を当てれば良いということだった。登録試験では魔法が使えればOKで、Eランク昇格試験ではコントロールが課題のようだ。風魔法で移動する練習をしたいので、試験では風の初級魔法を使うことにした。


「それではEランク昇格試験を始める。受験者は入れ」


 教官らしき男の声が響く。試験会場に移動すると今日こそは合格するぞ!と意気込む人やこれに合格しなかったら魔法使いから剣使いに職業を変更すると話している人もいた。貴族では子どものころから魔法のコントロールを練習するが庶民はそうではないようだ。


「次、フィーナ前へ」


「風よ、いでよ。風球ウィンドボール


初級魔法の風球を唱え、全身を包み込み持ち上げる。

ゆっくりと目標の岩へ向かい、周りが分かりやすいようにタッチして地面に降りる。

周り『初級魔法で飛、飛んでるだと…!?。馬鹿な…。』とざわついている。

驚く気持ちも分かる。私も午前に知ったばかりだから。

 風魔法に適正のある人が真似をしようとしていたが、自身の体重を持ち上げられるほどの魔力を持っていないようだった。

 三つの岩に風球ウィンドボールをあてて、無事合格した。


「師匠!Eランクになりましたわ!」


「おめでとう。冒険者登録をした翌日にランク昇格とはさすがとしか言いようがないよ。ただ人前で師匠はやめてほしい。剣使いなのに魔法使いの師匠と思われたくないからね」


「分かりましたわ。桜さんとお呼びします」


「ああ。それで頼む。敬語もいらない」


「基本的に敬語が多いので、、難しいですが、がんばります」


「換金も終わったことだし、夜ごはん食べに行こうか」


「はい!」

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