第7話 公爵令嬢は合格したい

 冒険者ギルドへ到着すると戦闘が大好きな荒くれ者ばかり……と思いきや、女性の槍使い、地方貴族のような魔法使い、小遣いを自分で稼いでいると思われる令嬢までいた。


「思ったより、身なりの良い方々が多いのね」


周りを見渡しながら呟く。


「依頼内容によっては高額報酬もあるし、平民でも初級魔法は使えるけど、中級魔法が使えるのはほとんど貴族だけだからね。魔法使いは貧乏貴族や貴族の3男・4男が多いわね」


「なるほど」


 冒険者ギルドとは、国が危機に瀕した際に登録者へ招集や圧力をかけるため、国直轄で運営をしている。卒業後、住居を王宮に移動してから勉強する分野だったため、そこまで把握をしていなかった。

 さっそく受付嬢の女性に挨拶をして、冒険者登録をしたいと伝える。


「冒険者登録ですね。ではまず会員証の作成に銀貨2枚と銅貨70枚を頂きます。最初はFランクからスタートして、実績に応じてランクが昇給していきます。職業は剣使い、大盾使い、槍使い、魔法使いの4種類です。職業を魔法使いに選択する場合は、魔法のテストを登録と昇給の際に行います」


と、と、登録に銀貨2枚と銅貨70枚ってそれ私の全財産なんですけれどおおおおお。という心の声を抑えつつ報酬が良ければ元手が無くなっても大丈夫なはず……。

おそるおそる報酬について聞いてみる。


「Fランクの報酬は平均どのくらいなのでしょうか」


「薬草10束 20銅貨。

魔法陣の素材である魔木1本(1.5m)  20銅貨。

小型の動物討伐 20銅貨。

となっております。動物討伐や魔物討伐は依頼が来たとき限定になります。

討伐依頼は1つ上のランクを受けることも出来ます。


ランクがあがると

毒草10束 30銅貨。

大魔木1本 30銅貨。で買い取りしますよ。

もし依頼を受けていないランク外の素材を採取した場合は、半額買い取りになります。ギルド以外での買い取りもギルドよりは低い値段での買い取りになってるので注意してくださいね」


「素材の買い取りルールもきちんとしてるんですね」


「ええ。安心安全なギルドなので、冒険者が無理をしないようにルールを設けているんですよ。お金が無い方が無理をして上級素材を採取しにいかないようにね!」


ドキッ!心当たりしかない。ルールを聞いていなければ、上級魔法が使えるのでとりあえず上級素材を狙ったに違いない。


「危険がたくさんなイメージでしたがお話よりも安全に配慮されてるんですね」


「はい。Fランク冒険者の方は命を落とすことはほとんど無いですよ」


(Fランク冒険者の方は……。ということは他のランクの依頼は命がけなのでは……)


「ちなみに一番死亡率が高い職業はDランクです♪」


「安心安全なギルドとは???????」


「登録される場合は、こちらの用紙に記入をお願いします」


「この会話の下りでよし!冒険者になろう!なんてまったく思えないのですけれど、他にできる仕事もありませんから、用紙に記入します」


「ありがとうございます。職業は魔法使いをご希望ですね。登録試験では、きちんと魔法が使えるかどうか登録試験を行いますので、ご記入後はお座りになってお待ちください」


記入して近くの椅子に座って待っていると、試験官と思われる男性が奥から出てきた。


「フィーナ、シン、ミーシャ、リリア。呼ばれたものは前へ」


やはり試験官だったようだ。他の受験者と一緒に魔法の試験を行うようだ。そして聞き覚えのある名前もあったような……。


「はじめまして、皆さん。魔法試験よろしくおねがいします」

と横にいたリリアが挨拶をしている。


「ええ!リリアも受けるの?」


「反応遅すぎよ。ほんとおばあちゃんじゃないんだから。これから冒険者やっていくならもっとしっかりしないとよ?出会ったときはあんなにキレキレだったのに。何があってこんな鈍くて丸くなってしまったのかしら」


「どすこいっ!」


「いやそういう丸いじゃないから。いきなりキャラ変わりすぎよ。本当はそっちが素なのかしら?」


今までは貴族らしい振る舞いや時期王妃としての振る舞いを求められてきた。その緊張感から解き放たれたからだろうか。自分でもよくわからないノリで話していた。

受験者の流れに合わせながら試験会場へ入る。

全員が会場内に入ると教官らしい男性が扉を閉め、会場の外にも聞こえるような声で指示をする。


「では、さっそく試験を始める。各々使える魔法をあの岩に向かって唱えるように。では登録順にフィーナから開始!」


不合格にならないようにしなくては。相応の魔法を使べく、複合魔法・炎嵐ファイアストリームの魔法陣を取り出し、岩と向かい合う。


「火よ、風よ、渦となり我が力となれ。炎嵐ファイアストリーム


火よ、風よ。と唱えたところで、教官が『ま、まて』と焦った声で話しかけてきたが、緊張のせいもあり、力んだ声でそのまま魔法を発動させてしまった。


ドゴーン!という激しい音が場外へ響き渡る。


 砂埃がおちついたところで目を開けると、岩だけではなく天井の一部も欠けていた。さ、さすがにまずい……。弁償しろと言われた1日目にして親に泣きつくことになる。それだけは避けたい。おそるおそる教官の方へ振り向く。


「ばかもの!ケガはないか?」


私の身を最初に案じてくれた。良い人だ。


「本来、登録試験とは初級魔法が使えるかどうかの試験なんだが……。初級魔法では使わない魔法陣を取り出した時点で止めるべきだった。俺も常識だと思い込み説明を省いていたな。すまなかった。だがしかし、やりすぎだ!ばかもの!試験で天井に穴をあけるやつがおるかっ!たくっどうギルド長に説明したものか……」


 あまりに大きな音だったため、様子を見ようと野次馬が集まってきた。野次馬の中から有能さがにじみ出ている30代くらいの男性が話かけてきた。


「これはどなたがしたのかな?」


「申し訳ございません。つい力が入ってしまって……。料金のお支払いは遅くなるかもしれませんが必ずします」


「将来有望な人材がギルドへ登録してくれて嬉しく思うよ。ようこそ、冒険者ギルドへ」


と手を差し出されたため、反射でそのまま握手をする。


「あの……。料金はいいんですか?」


「ああ、知り合いに修理が得意な人がいてね。つてがあるから気にしなくていいよ。ただしこれは貸しひとーつ。これから先よろしく頼むよ」


暗黒微笑の顔とはこのことだろうか。底の見えない笑顔にぞくりとする。しかし支払いできる余裕も無いため、頭が上がらない。

 こうして無事?冒険者ギルドへ登録することが出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る