第6話 公爵令嬢は就職したい

ー翌日

 リリアと仕事斡旋ギルドのハロワへ行くと、『こんにちわ』と笑顔が素敵な受付嬢が挨拶をしてくれた。


「ごきげんよう」


突然挨拶をされたので、咄嗟に貴族の言葉で返してしまった。早く町での言葉づかい慣れなくては。

 受付をして、番号が呼ばれるのを待つ。


「10番の方、3番窓口へお越しください」


辺りを見渡して、3番窓口を探し、用意された椅子に腰かける。


「こんにちは。今日はどんな仕事をお探しですか」


「そうですね。すぐに就業できる仕事がいいです。なるべくお金も高めがいいかしら」


「かしこまりました。では貴族の屋敷のメイドはいかがでしょうか。倍率は高いですが、面接で合格すれば衣食住完備ですよ。仕事内容は、掃除・洗濯・お世話ですね」


「掃除や洗濯をしたことがないのですが、大丈夫かしら、、ですか?」


「それは……厳しいかもしれませんね。では貴族専属の料理人はいかがでしょうか?」


「料理もしたことありません……」


「で、ではアパレル店はいかがでしょうか。洋服の販売が主な業務内容で、衣服の修繕もできる者が条件のようです」


「裁縫もしたことありません……」


「すぐにできる女性向けの仕事は、家事・掃除・洗濯・裁縫に関する仕事がほとんどでして……。短期のお仕事であればそれ以外のお仕事もありますがいかがなさいますか?」


「短期のお仕事の紹介お願いします」


「短期の仕事は後ろの掲示板にございますのでそちらをご確認ください」


席を立つと「次の方どうぞ」と受付嬢がさっそく次の求職者を案内していた。

学校では勉学もトップで、学生の頃から領地経営にも携わってきたから、仕事なんてすぐ見つかると思っていたのに。


平民の中では私ってもしかして無能!?


今後やっていけるか不安になってきた。いつも報告書に上がってきた結果から改善点を施策したり、過去の情報を分析して予測を立てるようなことばかりをしてきたから庶民が当たり前のようにできることを私は一切してこなかった。

今まで求められてきた教育の中に掃除や洗濯という項目が一切なかったのだ。


短期の仕事でも何も見つからないのでは?と思い、短期就業の掲示板をおそるおそる見上げた。


【短期仕事掲示板】

・本の複写……1冊50銅貨

・竹カゴ編み……1つ10銅貨

・コサージュ作成……1つ10銅貨

・演劇セット工作手伝い……1作品20銅貨(男性のみ)

・演劇セット描画手伝い……1作品20銅貨(女性のみ)

・建物修繕 手伝い……1軒20銅貨(男性のみ)


短期の仕事はほとんど成果制のものばかりだった。宿代が1泊銅貨30枚で、一食の平均が銅貨5枚だから、最低でも1日40銅貨は欲しいけれど、私にできるのは本の複写だけ……


「ねぇ、リリア。本の複写ってだいたいどのくらい時間がかかるのかしら?」


「本の複写だけをしていれば本人のやる気次第だけど1週間か2週間で終わるんじゃない?私も副業で本の複写してるけど、毎日コツコツ1時間くらいやって4か月で1冊分が書き終わるよ」



「30日×4か月=120時間で、1日9時間やったと仮定すると、13~14日でできるわね。2週間で50銅貨……もしかして、私の給料低すぎっ」


一人では生きていくことすらままならないとは……。昨日までは何の憂いもなかったのに今後不安しかない。庶民の平均給与が月に銀貨3枚なのに、私は月に銀貨1枚(銅貨100枚)しか稼げそうにないなんてなんて無能なの。


小説の中では、来世の知識を生かしてメシウマ料理をつくって儲けたり、なぜか物をつくるとすべて最高級品になるので薬屋とか鍛冶屋とか何かしら能力があるのに、転生していない私には何もない。


就職したい!!!!!が現実はそうはいかない


 掲示板の前で落ち込んでいると、ムキムキで気さくな男性に話かけられる。


「通りで魔法使ってたお嬢ちゃんじゃないか!お嬢ちゃんも仕事探しかい?」


「ええ。そうですわ」


「俺も普段は冒険者で大楯使いをしているが、パーティーが集まらないときは短期職業で食い扶持ぶちを繋いでいるのさ」


「冒険者!!その手がありましたわ」


「お嬢ちゃんはてっきり魔法使いだと思ったんだが、違ったのかい?」


「いいえ、その認識であってますわ。私は今から冒険者になります。リリア、冒険者ギルドへ行きましょう」


「本気?場合によっては命を落とすこともあるのよ。今まで戦いなんてしたことがないあなたにはオススメできない」


「そうね。今まで魔物や獰猛な動物は見たことがないわ。けれど私が今できる職業が魔法使い以外に無いなら、安全な職が見つかるまで魔法使いとして生きていくしかないじゃない。紹介された職の中では、本の複写しか出来そうにないんだもの」


「お嬢ちゃん、かなり特殊だね!普通は逆だよ。本の複写以外はむしろ出来て当たり前なんだけどねぇ」


「おほほほほほ」


笑ってごまかし、リリアに目を向ける。


「分かったわ。冒険者といっても最初は薬草採取や魔法陣の素材となる魔木の採取ばかりだから、そこまで危険は無いはず。冒険者ギルドへ行きましょう」

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