第5話 公爵令嬢は働きたい

◇◇◇


 目的地である魔道具屋へ向かう。

 アリアに会うのはとても楽しみだ。


 魔道具屋という看板のドアを開けるといきなり怒号が聞こえてきた。どうやらアリアと客が揉めているようだ。


「お客様、魔法陣が発動しなかった場合の保証や返金は致しかねます」


「ふざけるな!こんな使えない魔法陣をつかませやがって!金返せ!平民の癖に貴族である俺にたてつく気か」


「滅相もございません。しかし魔法陣は折れたり、濡れたりすると使えなくなります。お客様がお持ちの魔法陣はヒビが入っているようですが・・・」


「元から入ってたんだよ!だから金を返せって言ってるんだ」


どうやら貴族とリリアが揉めているようだ。あからさまな難癖をつける貴族に、同じ貴族として怒りが沸きあがり思わず客へ話しかけてしまった。


「失礼かと存じますが、魔法陣の状態を見させていただいてもいいでしょうか」


「貴様は誰だ?」


「わたくしは……」


「わたくしは、フィーナと申します。上級貴族へ販売できるような魔法陣の取り扱いもできる者です」


基本的に平民は貴族に取り入り生計を立てていく者が多い。客も味方をしてくれる人かと勘違いしたからか、すんなりと魔法陣を渡してくれた。

じっくり高級品質の紙に書かれた魔法陣をみる。水をはじく素材で出来ており、意図的に衝撃を与えないと折れたり破れたりしない魔法陣だった。


「こちらは複合魔法が使える魔法陣が描かれたものですね・・・。複合魔法となると魔力量、属性の適正が求められます。お客様は、魔力も適正も足りず、使えなかったため、わざと魔法陣をダメにして返金を求めていらっしゃるのでしょうか?」


味方をしてくれると思っていた平民に馬鹿にされた客がわなわなと震えている。


「貴様!なんの根拠があってそんなことを!この店潰されたいのか?」


貴族特有の脅しをかけてくる。こんな3流貴族にそんな権力なんてあるわけないのに……。


「私であれば、この折れた魔法陣の炎弾ファイアバレットを使うこともできます。証明して差し上げましょうか?」


「平民に、火と土の属性魔法が使えるわけないだろ。馬鹿にしやがって、そこまで言うなら表に出て証明してみせろ!」


そしてお店の前で、3流貴族と向かい合う。喧嘩か!?と既に見物客が集まっている。


「火よ、土よ、共同し我が力となれ。炎弾ファイアバレット


炎弾を3流貴族に向かって打つ。


「火よ、我が守りとなれ。火壁ファイアウォール」と3流貴族が唱える。


どうやら中級魔法までは使えたようだ。

しかし魔力量が少なすぎて、炎弾ファイアバレット火壁ファイアウォールが突破された。みぞおちにあたり、うずくまっている。


流れ弾が市民にあたらないよう土壁アースウォールを発動させていたが、必要なかったようだ。


「ばかな……。平民の小娘の魔力が貴族より上なんて……。しかも欠けている魔法陣を発動させてしまうなんて。覚えてろよ」

と最後まで3流らしい言葉を残して去っていく。


『おとといきやがれ』とお決まりの言葉をリリアが後ろから叫んでいた。

欠けている魔法陣と手元にある炎弾の魔法陣を重ねて発動させたのだが、相手にはバレずにすんだようだ。


「アリア、久しぶりね」


アリアの方を向いて、話しかける。


「入学後は全然来てくれなかったから、もう忘れられたのかと思ってたよ」


「そんなわけないじゃない」


「来て早々、災難だったね。助けてくれてありがとう」


「いいのよ。私たちの仲じゃない」


「今日はどうしたの?卒業の挨拶?魔道具の購入?」


「実は……。貴族をやめて平民として生きることになったの」


「え?じゃあ平民が魔道具や魔法陣を使うこともないから、お客様にもならないってこと?」


「平民になるって聞いて最初に出てくる言葉が自分の売り上げの心配なの!?どれだけ商魂たくましいのよ!


「冗談よ。ただあなたの領地で商売してるから、情報としては入ってきてたのよ。婚約破棄されて平民になったって……」


「市民の情報としては早すぎじゃないかしら?」


「領地のことだもの。商人は情報が命なのよ」


「さすがリリアね。そこで相談なんだけど……」


「無理よ」


「まだ何も言ってないじゃない!」


「話の流れ的に、ここで働かせてくれ!とか、住まわせてくれ!って言うんでしょ?無理よ」


「そ、そうだけど。どうして無理なの?」


貴族は動揺しないよう教育を受けてきたけれど、あまりに私を理解してくれていて、感激のあまりつい動揺してしまう。頼みごとは頼む前に断られているけれど……。


「まずここにもう一人住むスペースは無いわ。元貴族なんだし、宿でもとったらどう?」


「実は……。手元にある残金は銀貨3枚と、護衛用の魔法陣しかないわ」


「泊めてあげたいけど、場所がないのよ」


「住むスペースがないのはわかったわ。さっきみたいに横暴な客を追い払ったり、魔法陣もかけるから、一緒に働かせてほしいの。いえあなたと一緒に働きたいの」


「横暴な客はあんまり来ないし……魔法陣に関しても人手が足りてるのよ。書くだけなら魔力がなくてもできるからね。仕事の斡旋とまでは行かないけど、募集中の仕事を一緒に見に行くことならできるから、今日はもう遅いし、明日一緒にハロワ行こうか」


この私が自分で制度を整えた仕事斡旋ギルドのハロワに行くことになるなんて……。

 銅貨30枚を支払い、宿をとった。残り銀貨2枚と銅貨70枚で生活していくことはできない。明日から何かしらの方法でお金を稼がなくては。

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