第3話 公爵令嬢は金策したい

ー翌日

 町へ行く準備をする。

 町娘のふりをして中心街へ行く時の服を取り出す。

 何度か遊びへ行くうちに仲良くなった魔道具屋のアリアを訪ねる予定だ。魔道具や魔法の知識があるので、アリアと一緒に働きながら近くの家を借りて住もうと思っている。アリアもきっと歓迎してくれるだろう。


 変装用のウィッグを被り、肩につくかつかないかくらいのボブヘアになる。

 貴族の女性は長髪なので、髪が短いだけで平民に溶け込めるのだ。

 鏡を覗き込み、くすんだオレンジブラウンの前髪を整える。護衛用の魔法陣を小さな鞄に入れ、腰に巻きつける。

 高価すぎないお金に換金できそうなペンダントやブレスレットなども鞄に詰め、鞄を背負う。高価な品物は盗品と思われる可能性があるため避けることにした。


 昼食を食べた後、お父様とお母様へ挨拶し、土の国で留学しているお兄様へ手紙を送り、家を出る。


「いってらっしゃいませ。お嬢様」


町娘の格好で堂々と正門から送られるのは初めてなので不思議な感じがした。


◇◇◇


 馬車で町の近くまで行き、中心街の魔道具屋まで歩いて向かう。

 中心街の町並みは白を基調としたアパルトマンで構成されていた。7階建ての石造りのマンションは、1、2階にお店、3階から6階は居住用、7階は屋根裏部屋となっている。3階と5階にあるベランダの手すりには黒を基調としたアカンサスの模様が刻まれ、上品さを演出していた。

 地面には長方形の石が敷き詰められ、広々としており馬車や人が行き来している。石畳みの通りを挟んで、全て同じ建物で構成された中心街は統一感のある美しい景色で広がっていた。


 中心街の少し外れたところにある質店に入り、家から持ってきた高価すぎない物を換金する。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか。それとも買い取りをご希望でしょうか」


少し小太りの中年男性が店主のようだ。部屋が少し小汚い。普段ならこのような質店には入らないが、高級店は換金や購入に身分証が必要なため入れない。そのため中心街の外れにある店を選んで入った。


「買い取りをお願いします」


「お品物を」


鞄から品物を取り出す。買値は合計で金貨1枚だったが、中古なので半額の銀貨50枚くらいになればいいと思う。


『こちらの商品は伝説のペンダントで、体力や魔力の上昇効果がありとても珍しい魔道具です。このブレスレッドは初代王女が利用していたと言われる光の加護があるブレスレッドで金貨10枚分の価値があります』


という展開もありえる。いや小説の中ならこんな展開しかない。きっと私もそんな展開になるのだろう。


「お待たせいたしました。お客様。こちらの商品のお見積りですが、銀貨2枚ですね」


「ふぁ!?」


思わず声が出た。銀貨50枚くらいにはなると思っていたのに、あまりに安すぎる。伝説や由緒はどこにいったのだ。

 小説の世界では、現在では知られていない効果があってとか、高価すぎない物ほど実は伝説の剣だったとか、鑑定したら体力や魔力の上昇効果があったりするのに、わたしには何も無いのか。鑑定スキルでお金儲けがしたい!!!が現実はそうはいかない。


「あの……。こちら商品の元値は金貨1枚くらいなんですけど……」


「そうですね。ブレスレットは状態がいいので、銀貨1枚追加しましょう。銀貨3枚でどうでしょうか」


「ちなみに光の加護をついたりすれば、料金は上がりますか?」


 アンソワ家では代々光の精霊と契約をしている唯一の家紋なのだ。初代王女が光の精霊と契約し、その血筋の女性に代々受け継がれている。

 治癒をするときに光るので、その光で加護があると思わせられれば、少し値が上がるだろう。


「私は鑑定持ちではありませんので、加護があるかどうか分かりかねます」


「……。すみません。無理を言って。料金はこれ以上あがりませんか。銀貨3枚だとさすがに生活が出来ないので、なんとかなりませんか」


鑑定スキルのあるレアな人物がそうそういるわけが無かった。

値段交渉を行うが、難しそうだ。


「あの中古品の相場はこんなにも安いものなんですか」


「そうですね。物にもよりますが、定価の2%が相場ですよ。定価で金貨1枚そうとうと判定したので、最初に銀貨2枚とお伝えしました」


2%なんて安すぎる。たしかに小説や物語の中で、500円で購入した本を売ったら10円だったとか、2000円で購入した服を売ったら30円だったとか聞いたことがある。金や宝石の類は美術品としての価値ではなくgやカラットとかいう単位で売買されていた。


「たしかに2%が相場ですよね。銀貨50枚にはならずとも数十枚になるかなとか夢を見ていました」


「ははは。ご冗談を。銀貨3枚で良ければこちらにサインを」


言われるままサインをする。


「念のため、どこから仕入れたかもご記入お願いします」


まずい……。身分や仕入先を聞かれない用な商品と質店にしたつもりだったが、聞かれてしまった。


「昔のことで忘れてしまったのですが、たしかアンソワ家で利用していた物が下女に下げ渡され、その下女が誕生日プレゼントにとくれた物なんです」


「そうなんですね、ではその下女である友人の名前を記入してください」


 実際に私の侍女として働いていた者の名前を書いてことなきを得た。何かあっても最終的にはわたしに連絡がくるので何も問題はないだろう。


 銀貨3枚をしまい、店を出た。

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