第37話 一宿一飯
何を勝手にひとのうちに泊まってるの、とお母さんに言われた。
そんなことを言っても、学校まで歩いて帰れる状態ではなかった、と言っても、すっかり「逆上」というやつをしたお母さんには
「何言ってるの? たったの一キロでしょ?」
と取り合ってもらえなかった。
あの雪の中に外出してはいないので、お母さんはあの雪の道を歩くたいへんさがまったくわかってない。
おじいちゃんとおばあちゃんが間に入ってくれて、なんとかなったけれど。
それで、お世話になったというので、お母さんはわざわざ一時間とか電車に乗ってどこかの高級菓子店まで行き、五千円ぐらいする高級なお菓子の詰め合わせを買ってきて、
でも、そうすると、かつ天のご主人、つまりまりものお父さんのあのおじさんが恐縮してしまって、今度は高級ハムとかを満鶴のうちに贈ってきた。
ちなみに、おじさんは、約束どおり満鶴のバイト代五時間ぶん五千二百五十円に四千七百五十円も上乗せして一万円をお母さんに渡したのだが、お母さんは満鶴に封筒だけ見せてなかみは没収してしまった。
なんとなく、おもしろくない。
でも、それ以来、キャベツが高いのならぜひ
それは、やっぱり、
それにしても恐るべし。
蓑端地区の農家の「人のつながり」とかいうものは……。
「こういうのを一宿一飯の恩義って言って、だいじにしないといけないよ」
とおばあちゃんには言われた。
だいじにするのは大賛成だけど、一宿一飯ってそういうのだっけ?
でも、たしかに、一緒に宿題もし、一緒にご飯も食べたんだから、まりもとは「一宿一飯」の関係だ。
そう思うと、満鶴はひとりでに笑ってしまうのだった。
その一宿一飯のまりもと、学校で特別な関係になれたかというと、なっていない。
まりもにはいっしょの小学校から上がってきた友だちがいる。
ただ、そのまりもといっしょの小学校の子たちとは、あの雪だるま積み競争をやってから仲良くなった。
雪だるま積み競争では、満鶴は下から数えて一番だった。
雪だるま雪玉十段積みとかいう威勢のいいことを考えている子がいた。それに対抗するために、あんまり段数をたくさんは積めないだろうからと雪の玉を大きくしたら、雪がもう融け始めていたので、途中で割れて崩れてしまったのだ。
でも、まりもは、その子たちに宿題を写させてもらうのはやめたようだ。
どんなに出来が悪くても、途中までしか解いていなくても、ともかく自分でやって来るようにはなった。
まあ、やっぱり、忘れるというより、やってこないことも多いけど。
満鶴は、まりもとどうつきあっていいかわからないからまりもを避ける、というようなことはなくなった。
二人だけでことばをかわす機会はそんなに多くないけれど、満鶴は、自分がなんとかまりもとじかに話せるチャンスを作ろうとしているのに気づいてどきっとすることがある。
そして、まりもも、同じようにチャンスを作ろうとしているらしいと気がついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます