第30話 宿題
時刻は一一時三〇分を回っていた。
眠い。
仕事をしているあいだは何とも思わなかったけど、いま、たくさん食べて、まりもとおしゃべりして、ふと気づくと、眠くなっていた。体が重たくて、少し動かすだけでとても疲れる感じだ。
考えてみれば、図書室で勉強して、バスの時間に間に合うようにと外に出たところからずっと緊張しどおしだった。
え? 図書室で勉強?
はっとする。
そういえば、あの勉強の続きは……?
まりもが立ち上がった。
そして、やっぱり手までこたつの中に入れている
「さ、宿題、やろっか?」
「は……」
そうだ。宿題が終わってない。
国語は明日はないからいいんだけど、英語はやっておかないと。
それに、明日の数学は、宿題にはなってないけど、必ず当たる。先に問題を解いておかないと黒板の前で身動きできなくなってしまう。
いや、今日はもういいよ、寝させてよ、と言いたい。
でも、言えない。
とくに宿題忘れ常習者のこいつの前では、絶対に言えない。
「わたしにとってはめったにない大チャンスなんだよ。
「ああ」
快活に、勝ち誇ったように言うまりもに、満鶴はいつもの冷たい満鶴に戻って、言う。
「だめ。わたしは答教えたりしない」
「ええーっ」とか言って甘えて泣きついてきたらどうしよう……?
そんな展開を、自分は期待しているのかな?
でも、まりもはやっぱり元気にけなげに答えた。
「うん。いいよ。教えてほしい、っていうよりか、見せてほしいんだよね。答えを、じゃなくて、まじめな子が、まじめに勉強してるところっていうのをさ。だから、横で満鶴ちゃんが勉強してるって、それだけでいい」
何を言うか、宿題忘れの常習犯が!
その常習犯にそう言われれば、宿題は明日起きてから、なんて言うこともできない。
たぶん、こいつはいつもはこのままくたびれて寝てしまうのだ。
いまだって、もし一人ならばこのまま寝てしまったにちがいない。
満鶴がいるから、無理をしている。ご飯を食べてすぐ寝てしまう自分の姿を見せないように、と。
でも、たとえ無理をしているのであっても、まりもが宿題をすると言っているのを挫折させるのは、それはやっぱりよくない。
寝てしまいたい思いを断ち切るためにも、満鶴は勢いをつけて鞄を引っぱり寄せた。
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