第28話 まりもの物語(9)

 ごまかしは通用しない。でも通用させる義理もない。

 「そりゃまあ、午前中の授業でずっと寝てたり」

 「そのくせ給食の時間には何ごともなかったように起きたり」

 自分で言う。

 満鶴みつるも笑った。いつもなら不愉快な顔をして見せるところだろうけど。かわりに言う。

 「そういう、普通は恥ずかしがって言うようなことを、得意そうに言ったり、とかさ」

 「だって恥ずかしそうに言ってもしょうがないじゃない、そんなの」

 言い返してきた。

 「むしろ、満鶴ちゃん、もっと自信たっぷりに言ったらいいようなこと、恥ずかしそうに言うじゃない?」

 反撃までしてきた。

 まあ、そうかな、と思い当たることがないわけではない。でも、満鶴はいまは

「はあっ?」

といかにも意外そうに驚いてみせる。まりもはつづけた。

 「前もさ、生徒会で、そうそう、そのバカ学校の陣屋町じんやまちこうの生徒とかとさ、カジカガエルのマスコット作って、それを半場はんばの駅前でずっと立って配って募金集めたりとかさ。あれ、言い出したの満鶴ちゃんでしょ? しかも毎日駅まで行って立ってたっていうじゃない? すごいことやるなあ、って思った」

 「あ、いや……」

 その偏差値五〇以下の陣屋町高校とは、同じ地域の公立の学校ということでときどき活動をいっしょにやる。

 満鶴は生徒会役員なので、その先輩たちといっしょにここの市の自然環境保護とかの募金活動をやった。

 ただ募金を呼びかけるだけでは反応があんまりよくない、何かアイデアはないかと言われた。その前の自己紹介で、陣屋町の家庭科部の先輩が、いまぬいぐるみ作りに取り組んでます、なにかわかったものを作りたいんですが、アイデアありませんかと言っていた。

 ところで、兎野うの市は自然のままでカジカガエルが住んでいるっていうのを売りにしている。

 まあつまりいなかだってことだけど。

 そういうのを思い出して、じゃあ、カジカガエルのマスコットのぬいぐるみを作りましょう、とか言ったんだけど。

 満鶴が。

 最初は売りましょうって言ったんだったな。それを、陣屋町高校の先生が、売ることにすると品切れにしないように作り続けないといけないから、一定の数だけ作って、募金してくれたひとに一つずつプレゼントすることにしよう、と言って、それが通った。

 まりもが言う。

 「そういうのを、すごい堂々と報告したらいいのに、なんか小さくなって恥ずかしそうに言うんだからさ。それも、いつもは先生の前でもぜんぜん怖じ気づかないで朝礼の進行役とかやってる子がだよ?」

 「いやだってやっぱり恥ずかしいじゃない?」

 「だから、たとえそうでも、恥ずかしそうに言ってもしかたないんだって!」

 言いかたが偉そうだ。生徒会役員に説教なんて!

 そうじっとまりもを見ると、まりももじっと満鶴を見ている。

 笑わない。満鶴も笑わない。じっと見続ける。

 にらめっこになる。

 そう気づいたときに満鶴が声を出してうふふっと笑うと、まりもはもっと口を大きく開いて笑った。それで二人とも笑いが止まらなくて、しばらく笑った。

 まりもは目を細くして笑い続けていた。

 満鶴も、たぶん、そんな顔をしていただろう。あの小学校の卒業写真のときのように。

 いや。

 もっと、それ以上に。

 まりもが言う。

 「満鶴ちゃんとわたしって、混ぜ合わせて平均とかすると、とっても普通で、欠点もないけどなんの面白みもない女の子になるんだろうな。背丈も二人のちょうど中間で平均ぐらいだろうし、成績もまん中ぐらいだよね、たぶん」

 いや、満鶴はトップクラスというわけではないのに対して、まりもは低いほうのトップクラスなのだから、成績はまん中をずっと下回ると思うが……。

 それより、いまのことばで引っかかるところがあった。

 まりもにきく。

 「ってことは、いまのわたしって、何か面白みのある子なの?」

 そんなことは思ったことがない。

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