第27話 まりもの物語(8)
「写真も見てないの?」
顔を上げてきく。
「父ちゃん、写真に撮られるのすごく嫌いだから、写真、ないんだよね」
まりもは苦笑いする。
「写ってるとしたら記念写真とかばっかりだけど、記念写真の顔って、やっぱり働いてるときの顔と違うから。緊張して、なんかすごい怖い顔になるんだよ」
じゃあ、
小学校の卒業記念写真の友だちの顔は、本人より
そして、自分の写真写りはというと。
なんか自分で思っている自分よりもずっとかわいく写っている感じがした。目を細めてなよっと無邪気に笑っていた。
そしてそれがあんまり好きじゃない。
いや、それより……と思ったところで、まりもが写真をスクロールした。
また、ひひっと短く笑う。
だれの絵かはすぐにわかった。
女の子が、顔を上げて、目をぱっちり開いて、何か言おうと口を開いたところを写した絵で、さっきのおじさんの絵よりずっとていねいに仕上げている。
まりもだ。
まりもが顔を上げたところを、斜め前から描いている。
その絵は、中学校に入ったばかりで、満鶴が「この子いいな!」と思ったときのまりもの印象と重なった。
偶然なのかどうなのか、満鶴の頭に残っているまりもの印象も、ちょうどこんな角度だった。
よく似ている。
鉛筆の絵で、色はついていないのに、頬の赤いまりもの姿がこの絵だけから浮かんでくる。
しかも、絵は胸のところで切れているので、昔のスタイルがよかったころのまりもか、いまの太ったまりもかは、この絵ではよくわからない。
「ひひっ」
どうもその笑いはまりもの照れ笑いらしい。
「自分じゃ、似てるかどうかってわからないんだけど、満鶴ちゃんから見て、どう?」
「いや、似てる」
考えるより先にことばが出た。
「まりものいちばんいいところ、写してる」
「それは、この絵じゃ太ったところがわからないから、ってこと?」
ああ。やっぱり気にしてるんだ。
「それだけじゃなくて」
しまった。「それだけじゃなく」と言ったら、太ったところがわからないのもいいところだ、と認めたことになる。
まあ、そうなんだけど。
「まりもをぱっと見て、あ、いいな、って思ったところ、ぜんぶ出てる」
「うひひぃ……」
また照れ笑いする。
「満鶴ちゃんでも、わたしを見て、あ、いいな、とか思ったことあるんだ」
それはあるよ、と言おうか、どうしようか。その前にまりもがつっこむ。
「いっつも、うっとうしいやつ、みたいに思ってるわけじゃないんだね」
で、うっひひひひっと長めに笑う。
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