第14話 かつ天の仕事は続く(1)
せいぜい洗い終わったお皿を
最初は水分が残らないようにていねいに拭いていた。でも、まりもが来て
「水なんかちょっとぐらい残ってていいよ。それよりスピードのほうがだいじだから」
とさっさと持って行ったので、それからは満鶴もスピード重視で濡れたままのお皿も渡すようにした。
まりもがその皿にキャベツを盛る。小皿には時間が空いているときにお漬け物を載せる。ご飯
どの食器もけっこう重い。そのときの仕事の混み具合によって、まりもが満鶴のところに来たり、満鶴が持って行ったりだ。受け渡しのときにまりもが
「今日はえらい
と満鶴に言うと、それを聞きとがめたおじさんが
「よけいなこと言ってないで仕事に集中しろ」
とまりもを叱る。まりもは涼しい顔でお汁椀とご飯茶碗を受け取り、わざわざおじさんのうしろを通るときに
「いいじゃんべつに繁盛してるって言ってるんだから。いいことじゃんかよ」
と言い返していた。
おじさんは唇を突き出してまりもを見たけれど、何も言わなかった。
途中でまりもが
「一回休んでもいいよ」
と言ってくれたけど、
「いや、だいじょうぶだから」
と断った。
まだそんなに疲れてはいない。背中にはほどよく汗をかいている。雪の中で冷たいのを通り越して感覚がなくなるのに較べたら、手を休める暇もないことだけで十分に天国だ。洗い場の水もいまは温かい。
まりもが持ち場に戻ろうとすると、おじさんから
「おまえ、ころも作るときにダマ作るなよ。だめだなあ」
と文句を言われる。ふだんならば、あのふまじめなまりもが文句を言われていい気味だと思うところだが、いまは……。
どう思えばいいのだろう?
向こうでまただれかが立ち上がった気配がしたが、おじさんは天ぷらを揚げていて気がつかない。それで、満鶴が
「おじさん? だれかお帰りみたいですけど」
と声をかけた。すんでのところで「だれか帰るみたいですが」と言わなかった。自分で
「お、おう」
と言うと、少し慌てておじさんが出て行く。
かわりに油のところにまりもが来た。おじさんがレジにつく。
油の前に立ったまりもが、いたずらっぽく顔を寄せてきた。
「父ちゃんが自分でころも作ったらもっとダマだらけにするんだぜ」
と小声で言って、人が悪そうにひひっと笑った。それですまして油の前に立つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます