第13話 かつ天の仕事(4)
おじさんが戻って来た。まりもの後ろを
「通るぞ」
と言って通り抜け、油のところに戻って来た。
「おい、まりも」
「はい」
「キャベツはしばらくいいから、たまねぎ切っといてくれ」
「はい」
「あとたまごが少なくなってるから。ああ、あんまり泡立ってんの
「はい」
「あところももそろそろ作っといてくれ」
「一度に言うなよ」
「一度に言わないと間に合わないんだ」
「わかった」
おじさんは解いた小麦粉をおたまに分け取った。これがいま言っていた「ころも」というのらしい。細かく切った野菜とかを入れ、かき混ぜて油に入れている。かき揚げというものを作っているようだ。
こうやって作るんだ。
それに、よくこんなに流れるようにできるものだ。
まりもはぶすっとして台の下からたまねぎを取り出している。しゃがんで立ち上がるのがバネ仕掛けのようだ。
いつもこんなふうにやっているなら、体育のバスケとかのときに
たまねぎをまな板においている。皮はむいてあるようだが、まだ茶色くなったところが残っている。それを包丁でていねいにはずしている。
そうやつてからまりもは左手に包丁を持ってたまねぎをさくっと切った。今度も勢いよくさくさくさくっと切ってしまう。左手で四角いお皿に入れておじさんのほうに送る。
それが終わったら、またしゃがんでたまごを取り出して、左手だけで器用にとんとんとんと割って、なかみをボウルに落としている。殻は後ろのほうに捨てる。
あ、あれ?
まりもって左利きなんだっけ?
そんなことに感心している場合ではなく、いま来た三人分のお皿を洗ってしまわないといけない。
「あ、すみません。お茶ください」
と言う若い男の人の声がして、とん、とカウンターに湯飲みを置いた音がする。
「はあい」
ああ、お客さん、いままりもはたまごかき混ぜてるところなんですって!
でも、まりもは、
「少々お待ちください」
と言って、また
休む間もない、気を休める間もない、いまやっていることに集中しないと何がどうなるかわからない。いや、いまやってることに集中しても……。
こいつ、こんなところで生きてきたんだ。
いや、いまも生きてるんだ。
いや、そんなことを考えるのもあとだ。
ともかく、お皿を洗ってしまわないと、すぐに次のが来てしまう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます