第12話 かつ天の仕事(3)
と思ったら、先に台所に戻ってきたのはまりもだった。油の前に立ってる
「何やってるの?」
責めるように言われる。
「だって、おじさんが、油に火がついたら危ないから、見ていて、って」
「ああ、だいじょうぶだって」
まりもは小声で言って、肩を軽くそびやかした。
「そうかんたんに火がついたりしないようにできてるから、ずっと見てなくてもだいじょうぶだよ。それより父ちゃん早く天ぷら揚げてくれないかなぁ、お客さん待ってるのに」
まりもはまたキャベツ切りに戻る。
キャベツのところからこの油の場所は見えるだろうということで、油の見張りはまりもに任せたことにして、満鶴は皿洗いに戻る。
「おーい」
今度はまりもとは反対側からおじさんに声をかけられた。
「この皿も頼む。あとお盆も軽く洗っておいてくれ」
そう言って、カウンター越しに、食べ終わったお皿とお茶碗とお汁椀の載ったトレイを渡してくる。
「はいっ!」
あ、返事がまりもみたいになった。何かくすぐったい。
その戻されたのを見てみると、トンカツが二きれと、キャベツが半分くらいと、ご飯がやっぱり半分くらい残っている。
「うわぁ……」
家でこんなに残したら確実に怒られる。それもかなりひどく。
満鶴の家は農家だけあって、親もおじいちゃんもおばあちゃんも「食べ物を粗末にする」のをとても嫌うのだ。
だいたい、満鶴の家では、お米は自分の家で穫ったものだし、ほうれん草とかもだいたいうちのものだし、
残したり、下に落として食べられなくしたりして、あとでその作ったひとに会ったら、あ、なんか悪いことしたな、と思ってしまう。
小さいころはぜんぜん気にしなかったけれど、親に繰り返し怒られたり説教されたりしているうちに、自分でもそう思うようになってしまった。
でも、いまはそれとちょっと問題が違う。
残飯というのはどこにどうすればいいんだ?
今度は、まりものほうを見ても気がついてくれないようなので、まりものところに行ってきく。
「ね? 残飯どうするの?」
「あ、ああ」
キャベツを置いて、たったったっと来て、流しの横の青い四角いバケツを開けて、そこに割り箸でちゃっちゃっちゃっと惜しげもなく残飯を投げ込み、お皿を溜めた水にすっと沈める。
「ほい」
後ろからおじさんがまたトレイを二つ持ってきた。これもまりもが受け取ってくれる。今度は片方にキャベツが少しとからしが残っているだけだったので、ほっとする。また残飯捨てをやってから、まりもはふっと満鶴の耳元に口を寄せて、小声で言った。
「もったいないとか思っても、ここじゃ口に出して言わないこと」
思ったことを見破られていたらしい。まりもはくすんと小さく笑う。
「食べてるの、お客さんだからね。お客さんは神様だから」
言い捨てると、またキャベツに戻って行く。
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