第9話 まりもの部屋で(2)
「じゃ、悪いけどさ、これに着替えて」
まりもが入り口から振り向く。
「これ」と言っても何も持っていない。
その場でしゃがんで、入り口のすぐ横の左側のたんすから、白いカッターシャツと、しばらく迷ってから、腰のところがゴムになったズボンと灰色のカーディガンを取り出した。
しゃがんだまま
立ち上がって、黙って満鶴にその一式を渡す。
きれいにたたんだ白いカッターシャツの胸のところには山の形をかたどった模様の前に「JYM」を図案化した茶色の模様が入っている。
見たことがある。「JYM」は「
満鶴は顔を上げる。
「これ、
まりもは短く言う。
「お姉ちゃんの」
満鶴が反応する。
「いや。お姉さんの制服なんかわたしが勝手に着たら悪いよ」
それに、肌にじかにつけるタイツまで。
「いいの。お姉ちゃん、もう着ないから」
まりもは抑えた声で言って
「まあ、説明が必要ならあとね。ともかく満鶴ちゃんが着て問題ないから。大問題も小問題もないから。わたしの貸してもいいんだけど、わたしのバカが満鶴ちゃんに伝染したら悪いし、だいいち、サイズ合わないでしょ? お姉ちゃんののほうが合うと思うから」
いや、まりもはバカだなんて思ってないよ、と言ったほうがいいのか、服着ただけで性格がうつるわけないでしょ、と言うのか。
まりもはTシャツの上からじかにセーターを着て続けて言った。
「先行ってるね。下りてきたらエプロンあげる。部屋ちょっと寒いけどがまんしてね。ストーブの近くで着替えたほうがあったかいよ。あ、着替えたら、あとストーブ消してきてくれる?」
それだけ言うと、まりもはまたがらがらと扉の音をさせて廊下に出る。扉を閉めかけてからまた顔を突っ込んだ。
「あ、トイレ行きたかったら廊下の突き当たりちょっと手前の右側。お手伝いしてくれるんだったら、先に二階でトイレ行っといたほうがいいかな。うがいとか手洗いとかは下に来てから教える。あと、いい?」
いいかどうかもわからない。答えも聞かないまま、まりもはまた扉を閉めて行ってしまった。階段を下りる音がどすどすどすと聞こえる。家の造りなのか、まりもの下りる勢いが強すぎるのか。
ともかく、まりもを待たせては悪いことはわかった。鞄と脱いだものを床に置き、制服のリボンからはずし始める。
ふっ、と息をついた。ストーブの近くまで行っている時間も惜しい。満鶴はその場所で着替えを始めた。
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