第5話 川端まりもはこんな女
同時に、あんまり関わりたくない女でもあった。
一年生のとき、最初に教室に入ったときから、まりもは目立っていた。
頬が赤くて、つやつやしていて、それにすらっとしていた。
背は低かったけれど、それにしては小さいという印象がなかった。一年生だから、みんな小さかったのはたしかだけど、この子が目立ったのは、たぶんそれだけの理由ではない。
笑うと鮮やかなピンクの唇が印象に残る子だった。
この子と仲良くなれたらいいな、と、思った。
しかし、その思いはすぐ裏切られた。
宿題は忘れてくる。同じ小学校から来たらしい同級生に朝に慌てて写させてもらっていることもある。
授業中はときどき寝ている。
いや、よく寝ている。
一時間目の最初十分ぐらい起きていて、そのあと給食の時間までずっと寝ていたこともある。授業をきいていないのは、こいつとしてはいつものことだけど、よくトイレにも起きないで寝続けられるものだと思った。
当然ながら成績は悲惨だ。補習の常連らしい。
ところが、補習をやっている期間に生徒会の仕事で満鶴が学校に出てくると、いつもとは打って変わって生き生きした表情で補習の教室から出て来たのに出会った。
補習がそんなに楽しいのか、こいつ?
なんだか、よくわからない。
それに、たしかに一年生の最初はやせていた。制服の上から見てもおなかのところがほっそりしていて、こんな子、いいな、と思った。
ところが、いつのころからか太りはじめ、一年生の終わりには、胸とおなかまわりが同じくらいの大きさになってしまっていた。外から見ると、「がっちりした体つき」になったようにも見えるが、つまり太ったのだ。
顔は最初から頬の肉付きがよくて、その頬がつやつやで赤く、それはあまり変わっていないけれど。
ただ、太っていても、体を動かすのは好きで、とくにバスケットボールとかサッカーとか走り回る競技は得意だ。短距離走とかは中ぐらいの順位だけど、短距離走より短い距離を瞬発で速く走るのが得意らしい。体の動きの切れもよい。
寝ていないときはいつも明るく、声ははきはきしていたし、いつも笑顔ではいるのだけど、そのはきはきした声で前向きに言うのが
「わかりません!」
とか
「宿題は忘れました!」
とかばっかりだ。先生に
「川端。明るいのはいいがな」
と言われたら、そのとたんに
「ありがとうございますっ!」
と言って、先生をあきれさせ、その先を言うのを思いとどまらせたりする。
満鶴にはそういうのががまんならない。がまんならないと言ってもがまんしなければしようがないのだけど、できればあんまり関わりたくない。
最初に会ったころは「まりも」って名まえが詩的で、こんな名まえ、いいな、と思っていた。ところが、いつしか、体がまりものようにまんまるくなってきて、悪い冗談がほんとになったようで、なんでこいつこんな名まえなんだろうと思うようになった。
そんなことで一年生が終わり、こいつと別のクラスになれると思っていたら、二年生になってもクラスが同じだった。
だから、もし雪が降っていなかったら、声をかけられても
「うん。それじゃ」
で
でも、いまはそんなことは言っていられなかった。
このままこいつの家まで行き、このぐしょ濡れの足でこいつの家に上がらせてもらうのか、と思うと気後れしたけれども、それでもこのまま学校まで歩いて行くよりはずっとましだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます