第2話 雪の夜(2)
半場にも花堀にも電車の駅がある。だから、半場から電車で花堀まで行き、花堀から
そう思って、バス会社のサイトを調べると、
「花堀‐兎野線 本日の運行は終了しました」
と出た。
雪が降っていなくても、もともとこの時間にはバスは終わっているのだ。この線は乗る人も少なくて、もともと本数が少ない。
バスという手段は望みがなくなった。
あとは、家に電話して、車で迎えに来てもらうしかないのだけれど、道が雪で通行止めならば当然そんなことはできない。それでも電話するだけ電話してみようと家にかけるとお母さんが出た。
「学校から連絡があったわよ。帰れない人は学校で泊まれるように準備してるから、って。だから、
と言う。
後ろでテレビの音がして、小学生の弟と妹の声がした。またいつものように晩ご飯前に二人でふざけているらしい。
そこまで行けば、満鶴はいつもと同じように晩ご飯を食べ、お風呂に入って、弟と妹を早く寝るように叱り、宿題をやって寝ることができる。
そうなれば、たぶん、外の大雪も、もうテレビのニュースのなかだけのできごとだ。
「学校に……帰れ、って……」
電話をしまいながら思わず出たその自分の声を、泣きそうな声と言うんだろう。
いま、その学校からこの
歩道は雪に埋もれていた。
車道は車のタイヤの跡だけ雪が積もっていない。そこなら雪に足を取られずに歩ける。
だが車通りは多いので、車道を歩くわけにはいかない。
校庭でこの雪に足を踏み入れたときには、さくっと音がして気もちがいいと思った。
でもそれは最初だけだった。雪のなかを歩くと、すぐに靴からふくらはぎから容赦なく濡れた。
しかもバスの時間を気にして急いでいた。上から雪を踏みしめ、向こうずねで雪を蹴り、靴とタイツがぐっしょり濡れるのにも構わずできる限りの早足で来た。
靴は普通の通学靴だ。靴の中は水浸しだ。タイツも雪の水を吸っていて、冷たい水はふともものところまで上がってきている。
冷たいかというと、もうそんなのは通り越して、感覚がない。
そんなので、学校までまた一キロ歩いて戻る……。
三十分弱で歩いて来た道だ。
けれどもそれはバスに間に合わないとと
家までの一キロならばなんとか歩く。たどり着く場所は自分の家なのだから。
でも、たどり着くのが学校ならば?
たどり着いたとき、もうだれも来ないと思って、門が閉めてあったら?
電話すればいい。職員室の番号は知っている。
でも、職員室にだれもいなければ?
学校のことだから、スマートフォン使用禁止で、だれもメッセージに気がつかなかったとすれば?
でも。
ほかに選択肢はない。
「学校に……戻ろう……」
満鶴は感覚の消え失せた足を引きずるようにして、来た道を引き返し始めた。
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