雪の夜のまりも
清瀬 六朗
第1話 雪の夜(1)
こういうのを、泣きたい気もち、とでも言うのだろう。
でも泣き声も涙も出ない。
気もち全体がぼんやりしている。こんなことで泣いたらおかしいという気もちも、泣いている場合ではないという気もちも湧いてくるけれど、はっきりする前に消えてしまう。
雪は、もう真っ暗になった空から、いまもふわりふわりと漂いながら目のまえを下へ落ちていく。ときどき風が強くなって横に線を引いて流れるように見えることもあるけど、風がやめば、やはりまたふわふわと落ちる。
けっして急いで降りはしない。
これが前も見えないほどに激しく降っていたら、納得もするだろう。
こんなにまばらに、風が吹いたら吹き飛ばされるくらいにはかなくしか降っていない。
それなのに、地上にはもう三十センチの雪がたまっている。
山のなかの狭い盆地だから、大都会よりは寒い。いつもの冬も雪は二‐三度は降る。でも、積もったとしても一センチとか二センチとかだ。歩けないほどの雪は降ったことがない。
それが、今日だけは違っていた。
満鶴の家のある
道の上には雪がこんもり盛り上がっていて、やわらかそうだ。街灯を反射してきらきらとところどころ輝く。
遠い雪国の景色のようで、幻想的だ。
でも、その幻想的な雪に覆われた道を歩いて蓑端まで行けるかというと、とても行そうにない。
寒いなか、片手で傘を斜めに支えて、手袋を取った右手でバス会社に電話した。
つながらない。
何度電話し直しても同じだ。みんな同じように電話をかけているのだろう。
それでバス会社のサイトにつないでみると、
「
と出る。
当然、道が通行止めならバスも走らないよね、と自分を納得させる。
ほんとうは、道は通行止めだけれどバスだけは走ってくれるのでは、と淡い期待は持っていたのだ。
くじけそうな気もちのなかでまだ考えた。
その反対側のルートはどうだろう?
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