流され陰キャOL パンクに死す!

 

 逃げるようにホテルから家に帰って気が付いたら日曜が終わっていた。

 

 

 月曜の朝、後悔を引きずりながら会社に向かいデスクに座った。

 

 

 ドサっ……

 

 

 おはようございますを言いかけた口がそのままの形で固まった。

 

 

「この書類明日中によろしくぅ〜」

 

 

 去っていく男の背中を睨みつけたが男は和美に夢中で気が付かない。

 

 

「あれあれ? どうしたのミキちゃん!! 怖い顔してさ〜」

 

 

「あっ? もしかして生理?」

 

 

 顔を上げるとセクハラ部長が笑っている。

 

 

 あはは……と苦笑いしてやり過ごした。

 

 

 が、どうにも胸の奥がムカムカとしていつもと様子が違う。

 

 

 

「佐野さーん!! 一昨日はありがと!! これお願いしていい??」

 

 

 見ると付箋だらけの書類……

 

 簡単な記載内容も間違いだらけ……

 

 

「えと……」

 

「ありがとー!!」

 

 こちらの返事も聞かずにゆるふわパーマは去っていった。

 

 

 ドンドドン……

 

 ドンドドン……

 

 頭の中で和太鼓が聞こえてきた。

 

 

 

 セクハラ部長がニヤニヤしながらこちらに来て囁いた。

 

 

「ミキちゃんって処女だよね? よかったら僕がレクチャーしようか?」

 

 

 直樹がボコボコのエレキギターでアンプを粉砕するのが見えた。

 

 

「ったわ……」

 

 

「え?」

 

 

「処女なら昨日散ったわ!!」

 

 

 立ち上がって叫んだ。

 

 

 シン……と静まったオフィス。

 

 全員が驚いた顔でこちらを見ていた。

 


 しかし私の頭の中では爆音のパンクロックが唸りを上げている。


 爆音と共に心臓が脈打つ。


 頭に血が上る。


 見渡すと皆の顔が目に止まった。


 サッと頭にのぼった血の気が引いていくのがわかる。たまらず俯いて座りそうになる。


 


 その時、優しい歌声が聞こえた。



 それって本当に言いたかったことなの?



 顔をあげて書類野郎を睨みつけた。



「おい!! お前!! 明日までに〜じゃねぇよ!! もっと早く持って来いや!!」

 

 

「す、すみません」

 

 

「和美!! てめぇ何年目だよ??」

 

 

「三年目だけど……」

 

「じゃあなんで一年目の新人より仕事できねぇんだよ!? 顔面に栄養取られすぎてんじゃねぇの!?」

 

「ひっどい!!」

 

「うっせぇえええわ!!」

 

 

「まぁまぁ…どうしたのミキちゃん!? やっぱり生理??」

 

 

「黙れセクハラ部長!!」

 

 

 そう叫んで部長の鼻にパンチを決めた私は会社を出ていった。

 

 

 

 

 そして気がつくとあのライブハウスの前に立っていた。

 


 

「ラブホ行く?」


 

 振り向くと直樹がいた。

 

 

「行かない」

 

 

 私は直樹を睨んだ。

 

 

「じゃあ飲みいく?」

 

 

「い・か・な・い」

 

 

 直樹は頭を掻いて立ち去ろうとした。

 

 

「焼肉」

 

 

「え?」

 

 

「焼肉奢ってくれるなら行く。高いとこ」

 

 

 大人になって初めて言ったわがままだった。

 

 

「りょーかい」

 

 直樹はそう言って笑った。

 

 

 

 流され続けた私はパンクで死んだ。

 頭が破裂して死んだ。

 中から出てきたのは紙吹雪ではなく

 なかなかに図太い新しい私だった。

 今から新しい私は

 惚れた男と焼肉を食べにいく。

 その後のことは秘密。 

 

 


 

 流され陰キャOL パンクバンドに死す

 

  ーーーーーーー完ーーーーーーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る