流され陰キャOL 流される

 最前列に流されて見様見真似で手を上げていると空気ががらっと変わった。

 

 直樹はボロボロのアコースティックギターを手にとっておもむろに口を開く。

 

 

 

夕焼けが綺麗ねって君が笑う

それって本当に言いたかったかことなの?

 

道端の花に君がつぶやく

僕には聞こえないくらい小さな声で

 

トボトボ二人で影並べ歩く

帰り道の臭い

鼻を刺す化学工場の煙……

 

 

 

 

 優しく歌う直樹の声に

 バンドがそっと割り込んだ。

 

 

 

君の眼は綺麗ねって君が笑う

それって本当に言いたかったことなの?

 

君の声は綺麗ねって僕も笑う

本当に言いたかったのは別のこと

 

トボトボ二人電燈の下を歩く

見えなくなった影

鼻を刺すサヨナラの臭い

 

 

今夜は月が綺麗ですね

震えて話す君を抱きしめた

僕らは言いたいことも言えない臆病者

だから月に隠すのです

大事なことは言葉にせずに

今夜も月に隠すのです

 

 

 

 気がつくと泣いていた。

 

 泣いて直樹を見ていた。

 

 

 直樹と目が合うと直樹は笑った。

 

 

 その後のことはよく覚えていない。

 

 

 

 ただ、目が覚めると和龍と目があった。




 隣に直樹が眠っていた。

 

 

 

 見ると自分も裸だった。

 

 

 

 血の気が引くのを感じた。

 

 

 

「ミキちゃんおはよ」

 

 目が覚めた直樹が笑いかけてきた。

 

 

「ここどこ……?」

 

 分かっていたけど一応聞いた。 

 

 

「ラブホ」

 

 

 

 「ですよね…」


 


 唯一流されずに守ってきたものが散ってた。

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