流され陰キャOL パンクに出会う

 

 前座なのだろう。一部の人達だけが盛り上がっている。さっきの人の姿はステージにない。

 

 

 何を思うこともなくハイネケンをチビチビ飲みながら眺めていると一組目が終わった。

 

 BGMが再び流れだし、喧騒が戻る。

 

 ステージでは楽器が入れ替えられていく。

 

 

 

 ステージを眺めていると和美の姿が目に入った。

 

 会社では見たことのない砕けた笑顔で連れの人たちと最前列に陣取っている。

 

 

 

 なんてことはない。

 

 私はチケットの捌け口……

 

 分かっていたことではあったがズンと気分が沈んだ。

 

 

 

 BGMが消えて照明が暗転するとビジュアル系のグループが出てきた。

 

 

 メイクとセクシーで奇抜な衣装。やたらと多用される裏声。

 

 

 そのたびに黄色い歓声が上がり、会場はヒートアップしていく。

 

 

BLOΦDY RΦSESブラッディ ローゼスをどうぞよろしく」

 

 

 そう言って投げキッスをしてメンバーが退場した。

 

 

 BGMが再び始まり喧騒が戻ってきた。

 

 

 

 もう帰ろう……義理は果たしたはずだ……

 

 

 

 そう思った時だった。

 

 

 P➖➖➖➖➖➖PiPiPiキイィイイイイイイイン!!!

 

 

 激しいハウリングが会場を包む。

 

 

 

 見るとジーンズに裸の上半身、髑髏と和龍のタトゥを挿れた直樹がステージに立っていた。

 

 

 

 直樹はギラついた眼で会場を隈なく睨みつている。

 

 

 

 ドンドドン……!! ドンドドン……!!

 

 

 

 和太鼓を抱えた筋骨隆々の男が太鼓を打ち叩きながら入場する。

 

 男の格好はブーメランパンツ一丁と厳ついサングラス……

 

 

 

 その後ろからソソソ……とギターとベースを抱えた二人の優男が入ってくる。

 

 

 

「いや……情報量多すぎやろ……」

 

 

 

 ブーメランパンツは和太鼓をそっと置いて、ドラムセットに座った……

 

 

 

「置くのかよ……」

 

 

 

 私はおもわず心のなかでつぶやいた。 

 

 

 ブーメランパンツはスティックを掲げて叫ぶ。

 

 

 

 

「おねがいしやす!!」

 

 予想を裏切る甲高い声。

 

 

 

「1・2・3・4!!」

 

 

 

 爆音とともに直樹が絶叫する!!

 

 

 アホな歌詞、がなり声……

 

 案の定すぐにカスカスにかすれて聞こえなくなる声。

 

 

 

 

 下品、単細胞、支離滅裂、不格好……

 

 

 

 

 それなのに……

 

 

 それだから……

 

 

 

 意味不明の歌詞がライブハウスを膨張させた!!

 

 膨らんだライブハウスの空気は気圧を爆発させてそこにいる人間の頭を破裂させていく!!

 

 

 

 次々と破裂していく頭の中に、和美の頭が見えた。

 

 

 破裂した和美の頭から色とりどりの紙吹雪が舞い散る。

 

 

 

 

 会場の頭は紙吹雪を吹き上げながらどんどん破裂していく。

 

 

 

 ついに自分の目の前にいた人の頭が破裂しすると、ピンクの紙吹雪が舞い散ってその向こう側に直樹の姿が見えた。

 

 

 

 金色の光に照らされて直樹の汗が光っている。

 

 キラキラ光る直樹が無邪気な笑みを浮かべてこちらを見た。

 

 

 

 目があった。電気が走った。

 

 

 

「いやいや……眼……綺麗すぎやろ……」

 

 

 

 頭が爆発するかわりに心臓が破裂しそうに高鳴った。

 

 

 

 それもつかの間……

 

 

「うぐっ……」

 

 

 スローモーションで折れるヒールが見えた。

 

 ピアスが乱暴に千切れて耳に焼けるような痛みが走った。

 

 

 

 

 気がつくと私はモッシュピットの濁流に巻き込まれ最前列に押し流されていった。

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